コウモリ傘【灰谷竜胆】 (ページ12)

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【見ーつけた】ページ12

元の生活に戻って半月が過ぎていた。
ここのところ、昼は夏らしい晴れた空が広がっている。

金曜日──。

いつもの帰り道。晩夏の少し涼しくなった夜。あの路地裏のある居酒屋の前を通る。今日も醤油ダレの香ばしい匂いがしていた。

竜胆さんに会ってからこっち、実は少しだけこの居酒屋の前を通るのが楽しみになっていたりする。

けれど、今日はまっすぐ帰る。
まっすぐ帰って、今日の夜のロードショーを見ながら家でゆっくり飲むんだ！

揺れるコンビニの袋をぎゅっと握って、頬が緩むのを抑えた。

「ね、おねーさん」

アパートのすぐ前でかけられた声に振り返った。後ろには誰もいない。

「お前だよ」

もう一度、前に向き直る。パチっと髪をセットして、うっすらと笑みを貼り付けた紫色の男性が傍の電柱に凭れかかるように体を預けて立っている。

まるでポーズを取るように組まれた腕。軽く小首を傾けて、あざとさすらある表情。立ち姿が絵になっていた。

「私？」

「そ、お前。お兄さんとお話しよ？」

場所が場所ならドラマのワンシーンだったと思う。だけど、この人は関わったらダメな人なんだとすぐにわかった。

「時間がないので、すみません！」

彼の首にある入れ墨に、ひどく見覚えがあったから……。

「お前の都合は関係ねーんだわ」

「！」

後ろから布で鼻と口を覆われる。
暴れようとしても、体を力強く引き寄せられて抱き込まれているため動けない。

「大人しくオチとけー」

息が苦しいのに尚も押し当てられる布は、しっとりしていた。これじゃあ、息も吸えないし声を出せない。

「ッ──…………」

もう、ダメ──。
限界を超えて、空気を求めて吸い込んだ。鼻を突く薬品の匂い。ガラガラと、さっきコンビニで買ったアルコールの詰まった缶が落ちる音を最後に、私は意識を手放した。

「蘭さん、始末した方が早かったんじゃないですか？」

「それじゃ竜胆がキレっからなー。今あいつ面倒くせぇし。縛るだけ縛って連れてけ」