【雨夜の出会い】 ページ1
雨の降る中、家路を急ぐ。
朝の予報で、夜から降ると言ったお天気キャスターの言葉通りに降り出した雨。一斉に通りに傘が咲いた。
降り出すまでには帰ろうと急いだ仕事も残業。結局いつもより遅い時間の退勤。降ってきた雨。最悪の三連コンボだった。当然、気分だって最悪で、ジメジメとした湿度がそれに拍車をかけた。
「やっぱ傘、持って出とくんだった……」
ついさっき、コンビニで買ったビニール傘に、雨が降りて滑っていく。
傘をさして濡れない筈なのに、降り始めの雨が染みて湿気ったスーツ肩口。その不快感にため息をついた。
せっかくの金曜だってのに勘弁してほしい。
ビニール傘に落ちるバチバチとした音を聞きながら、とぼとぼ歩いていると、醤油ダレが焦げる香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
居酒屋だ──。
明々と灯った提灯の下がった大衆居酒屋。その換気扇から漏れた匂いだった。
ちょうどいいかも……。この鬱々した気分をお酒で流そう!
そんな考えから足は吸い寄せられるように、軒下へ向かう。
「うっ………」
「?」
横開きの格子戸に手をかけようとした時だった。かすかに、人の呻く声が横の暗い路地から漏れてくる。
「気のせい?」
夏の夜の真っ暗な路地裏からの声。思わず体が震えた。顔をひょっこり出して恐る恐る覗いても、路地裏に続く道は真っ暗で、人の気配はない。
気のせい──。きっとそうだと再び居酒屋へ入ろうと首を引いた。
「くそっ……!」
……やっぱり気のせいじゃない。
聞こえる声には苦痛が滲んでいる。
気づいたら、今度は声の方へ呼ばれるように足を踏み出していた。
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作者名:はいず | 作成日時:2022年7月31日 22時