【時間】 ページ41
「鯛茶漬け、おいしかったぁ」
「だろ?」
「はい!すごくおいしかったです!」
「連れてったかいあったわ」
山と海を食で堪能した私達は、これまた老舗の大きな百貨店に来ていた。竜胆さんと話しながら、専門店ばかりが入るフロアを巡る。話題は、シメにと食べた鯛茶漬けについて。
和の雰囲気を壊さない、趣のある土瓶に入れられたダシ。それをかけた瞬間の、踊る薬味と鯛の身の濁りに感動したのがついさっき。感動で満たされた心と幸で満たされたお腹で、すっかり緊張は解けてしまっていた。
「私、コンビニのおでんのつゆが優勝だと思ってました」
「あー、馬鹿にできねぇよな。昔仲間とたむろって食ってたわ」
「コンビニのおでん食べてる竜胆さん、想像できないです」
「昔は眼鏡曇って兄……お!行きたかった店、ここ」
言葉をばっさり叩き斬って、竜胆さんが足を止めたのは時計店のブースの前だった。
どうしてそこで終わるのか。眼鏡が曇った下りが凄く気になる。眼鏡の続きが、聞きたい!
気になって仕方がない頭の中では、すぐに六カ国協議が招集される。議題はもちろん、竜胆さんの眼鏡について。
頭の中でどんな眼鏡だったか議論しながら、ブースに一歩。おしゃれなクラシックの有線がかかる店内は、暖色を含んだ暖かい証明に照らされて、落ち着いて買い物を楽しんでいる人達ばかり。スーツでキメた竜胆さんもすぐに溶け込んでいる。そんな中、私一人が場違いすぎる。一番最初に見つけられる、まちがいさがしの間違いくらい違和感しかない。
そして──。
見る時計どれもこれも……ね、値札が、ない!
ショーケースには、いろんなブランドの腕時計が並んでいた。見てしまった瞬間に六カ国協議は早々にお開きとなり、議題の眼鏡は彼方へと飛んでいく。
時計達は、ランウェイでスポットライトを浴びるモデルのように、ライトアップされたショーケースの中に並んでいた。魅せる陳列。溢れ出る高級感。凡庸を隠しきれない私。
入店早々、近づいてきた店員の女性とやり取りをしている竜胆さんを他所に、私は他の店員に声をかけられないようにとできる限り気配を消した。
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作者名:はいず | 作成日時:2022年7月31日 22時