コウモリ傘【灰谷竜胆】 (ページ3)

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【雨天の下2】ページ3

やっぱり関わらないでおこう──。
救急車を呼んだら居酒屋へ戻ろう、と立ち上がってスマホをポケットから取り出した。

「仲間呼ンで回収すんの？いいぜ、やってみろよ。通話ボタン押す前にその細っせぇ首、へし折ってやっから」

「ボッロボロのくせに何強がってんですか！救急車呼ぶのでじっとしててください。それと！ご家族がいれば連絡先教えてもらえますか？」

「……アンタ、あいつらの仲間じゃねぇの？」

「仲間？通りかがりです」

少し逡巡した後に、ゆっくりと手がこちらへ伸ばされる。

「……スマホ、貸してくんねェ？」

「とりあえず救急車呼んでから……、あ…………」

「呼ばないでいい。困っから」

「あの、ごめんなさい。電源……切れちゃいました」

男性の方に向けた画面は、きっと真っ暗だろう。昨晩、スマホをケーブルに繋ぐ前に寝オチしてしまった自分を恨んだ。

「ッは……使えねェ女」

「はぁ！？」とスマホをポケットに戻して、再び見下ろした男性はまた俯いていた。雨は変わらず彼を濡らす。

「お兄さんのスマホは」

「ねぇよ……。壊し、た……」

「〜っ！もう！！じっとしててくださいね！」

人に言っておいて！
いや、怪我人相手に苛立っても仕方がない。ため息を吐いて、また男性の前に屈んだ。そっと、男性の顔を汚す血をハンカチで拭う。

「お名前、教えてください」

「……」

うんともすんとも言わない。前髪を掬って顔を確かめると気を失っていた。ハンカチには、彼の血がべっとりとついている。

「お、重い……」

男性の腕を肩にかけて、引きずるように歩く。
道行く人の視線が痛い。彼の革靴が擦れる。けれど、気にしている場合じゃない。

居酒屋の人を呼ぼうかと思ったけど、救急車すら困ると言っていたのでやめた。

二人してびしょ濡れになって、目的地を目指した。