逃げても逃げても何度でも

【Factor】 ページ37

＿＿＿2017年、大晦日


今のところ、この2017年では、二人の影はない。


あれから私は、直人くん宅のゲストルームを間借りさせてもらっていた。
職場への行き帰りもほぼほぼ一緒で、外で一人になる機会は激減。


私の家も契約をそのままに必要な物を取りに行く時のみ、明るい時間に帰っているが最近は回数も減っていた。


本日、晴天。召集がなければ久々のオフ。
私は、陽が差し込む部屋でコーヒー片手に机のパソコンに向かいながら、家主のいない家に一人。


調べているのは、この未来での二人の情報。
まずは社会に出回っている情報から。
事件記事、大型掲示板、SNSから裏サイトまで目を通す。

が、やはりこの現代でも収穫はなかった。


座ったまま大きく伸びをしてから、一つ息を吐いて頬杖をつく。


2017年がこのまま終われば、この未来では、暫定ではあるが、私は二人に見つからずに生活することができたことになる。


それは、一人の瞬間を作らないという対策が有効であるとの証明になる一方で、これは根本的な解決策にはならないこともわかっていた。


延命措置のように"まだ見つかっていない時間"または"手を出せない時間"を延ばすだけ。


問題の根底…ここを変えないとどうにもならないという点は、蘭と竜胆の思考…なんだと思う。


二人の行動原理が執着と置いた時、接触から連れ帰って以降、外に出さないという行動を起こすに至るまでの考え。
これを変えないと終わらない。


けれど、一般的に他人への執着や関心なんて長いこと関わらなければ、消えずとも時間の経過で薄れ、別の物にシフトしていくものだ。


子供の頃に欲しいけど買ってもらえなかったおもちゃを大人になって欲しがらなくなるのも恋人が別れ、別々のカップルになるのも。
時間が経って、関心や執着が薄れ、別の物に移り変わった結果だ。


おまけにこの十数年で、お互い価値観や思考も経験や受けた影響で何かしら変化しているはず。


私の場合、距離だって物理的に置いた。なんなら当時の私は、記録上もう存在しない。


地方に移って連絡先を変え、叔父の助言で東京の友人達にはそれを教えなかった。
今ある連絡先は、家族以外、本宮Aになってできた繋がりだ。


私の二人との繋がりはあの時から薄れ、二人の私との繋がりもだんだんと細くなって切れたと思っていた。


「蘭…竜胆…」


2017年の最終日、昼下り。
手に取ったマグカップの中の黒いコーヒーには、12年前とは違う自分が映っていた。

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