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「もっと何かあるのかと思ったよ。」
そう笑う水戸に、う…とたじろぐ九井。
「なかったわけじゃ…ない…かも…?うーん…」
その九井の声は、翔陽の応援の声にかき消されていった。
「〜〜っ、お手洗い!いってくるね!」
九井は羞恥心に耐えきれず席を立ち、返事を待たず観客席の階段を走って登っていった。
「はぁ…はぁ…どこのトイレも空いてなかった…1階なら、男子選手ばっかりだから空いてるかな…」
空いているトイレを探し走り回った九井は、選手控室近くのトイレを見つけたところだった。
観客席が埋まるだけのこともあり、女子トイレには翔陽選手のファンと思われる若い女たちが
やっと見つけた空いていそうなトイレに入ろうとすると、隣の男子トイレから背の高い男2人が出てくる。その直後、「誰だ!?」という大声が聞こえ、すぐに扉が勢い良く開かれた。
先にトイレから出た男の背中を見つめていた大声の張本人であろうその人は、三井であった。
「ちっ…」
三井は静かに舌打ちをし、男2人がいなくなった空間をただ見つめていた。
「み、みっちゃん…」
そっと声をかけると三井は肩をビクリと揺らした。
「うわ!なんだ、Aかよ…驚かせんなよ。」
「そういうみっちゃんこそ!勢い良く出てきてびっくりした!」
九井はそう笑うも、三井の表情は冴えないものだった。
「……
「え!?みっちゃんの得点を?5点?無理でしょ!」
眉間に皺を寄せて言った三井に、九井は正直に返す。
そんな九井の様子に、目を丸くしたあと吹き出す三井。
「……みっちゃんは強い。私が保証するよ!」
そう言い九井は右の拳を突き出した。
「ふっ…ああ、ありがとうよ。」
三井はそう言ってコツ…と拳を合わせたあと、九井に背中を向けて歩き出した。
九井のほうを振り返ることなく去っていった姿に、少しだけ寂しさを感じながら見送った。
「…はっ、トイレに行きたいんだった!」
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作者名:宮永 | 作成日時:2023年7月18日 15時