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高校1年の5月にして、転校することになった。
1年のこんな時期に転校するのは相当稀有だろう。
制服が間に合わなかったため、先日購入した湘北高校のジャージに腕を通す。
新たに始まる生活に、不安と緊張、ほんの少しの高揚感を抱えて1歩を踏み出した。
「はじめまして、九井Aです…!制服が間に合わなくて、ジャージ姿ですがよろしくお願いします…!」
転入先となった教室で軽く自己紹介をする。
教室中の目が、一斉にこちらを捉える。
苦手な感覚に思わず、肩をすくめた。
教室の端々から、背がでかいだのなんだの言われている声が聞こえる。
成人男性の平均身長を軽々と上回るこの身長は、本人にとっては特段嬉しいものではなかった。
ざわざわとした教室の中、教師に案内された端の席に腰を掛ける。
ちょいちょいと腕を突かれ視線を向けると、高めの位置で髪をツインテールに束ねた、高校1年にしては大人びた印象の少女が笑いかけていた。
「よろしくね、ココノイちゃん。あたし、松井っていうの。教科書とかも見したげる!ね、お昼一緒に食べよ。」
気さくに話しかけてくれた彼女に感謝を述べ、昼食の約束をした。
昼休みになると、好奇心からスカートを折った女子、ズボンを下げた男子らが話しかけてきた。
「ココノイさんまじ背たか〜い!なんかスポーツやってんの?」
「あ、いや、今は特に…」
「カレシとかいたりすんの?てかどっからきたん??」
「え、と…特に……」
複数人にまくしたてられ、焦っていると隣の席の少女…松井がツンツンと肩を小突く。
「ほらほら、九井ちゃん困ってんでしょ!うちらとご飯食べるんだからあっち行った!」
松井がそう声をかけると、集まっていた男女が怠そうな声を上げながら散り散りにちらばっていく。
「あ、ありがとう…松井、さん…」
「いーのいーの!転校初日で大変でしょ!晴子と藤井待ってるから行こ!」
お礼を伝えると、全く気にしてない様子で腕を引く松井。
連れられるまま、朝作ったお弁当を片手に階段を1弾飛ばしで駆け上って行った。
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作者名:宮永 | 作成日時:2023年7月18日 15時