５話 ページ6
ーA Sideー
さっきはびっくりした。
起きたら目の前に焦凍がいたんだもん。
だって、さっきケンカしてた人の顔が前にあるんだよ？押し倒されてるみたいな感じで。
焦凍は何を考えてるんだろう。なんか……
兄妹とは違う目で見つめられた気がする。
なんだったんだろう。
てか私何考えてんだろ。そんなわけないじゃん。
そんなこと考えながら、私は風呂に入った。
『……』
この風呂のお湯の温かさが分かったら、どれほど気持ちいいんだろう。
ただ液体に浸かっているだけのようにしか感じないから。
焦凍は、どんな感じなんだろう。
焦凍……。
『はあ……』
疲れたな。今日も。
私は体のあちこちをみて、怪我をしてないか確認した。
そして、自分の右手を見た。
『…お母さん』
私は痛みを感じないから、皆が感じてる痛みが分からない。
痛みを感じる人の気持ちが分からない。
お母さんや焦凍は、お父さんによる痛みを感じていた。
でも私だけ感じてなかったから、怪我をするのだって私だけでよかった。
殴られても私は痛がらないから、殴られない私をお母さんはとても憎かったのだろう。
多分、焦凍も同じだ。
でも私にはどうすることもできなかった。
慰めようとでもすれば、「何も分からないくせに」って言われるだけだ。
だからできるだけ関わらないようにして過ごしていた。
たまにお母さんの部屋から、焦凍との会話が聞こえた。
「僕、お父さんみたいになりたくない。お母さんをいじめる人になんてなりたくない」
「…………でもヒーローにはなりたいんでしょう？」
あのころは、私だって優しくしてもらいたいと思っていた。
話を聞いてほしかった。
でも、私は皆とは違う人間だから、誰もそんなことしてくれなかった。
でも、辛くなかった。
いつのまにか、心の痛みまでも感じなくなってしまったんだろう。
化け物になってしまったかもしれない。
私は……。
私は一体、何者なの？
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作者名：派閥弁当 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時：2018年6月11日 1時
