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あべが戻ってくる、けど、佐久間くんは椅子に置いた私の手を離してくれない。なんで、あべには、見られたくない。
「ごめんっ!なっちゃん、じゃなくて、彼女酔いつぶれちゃったみたいで、迎えに行かなきゃいけなくなって…」
へえ、なっちゃんって呼ぶんだ。
冷静な頭は冷静なふりをしているのか、はたまた。
朝見た、ディスプレイ越しの夏月、の文字を思い返した。
《俺らは大丈夫だよ、な?》
こちらを覗き込む佐久間くんは、やっぱり悪魔だ。口角を上げて、にんまり笑う悪魔。
『早く行ってあげなよ。』
行かないで、と言える関係でも何でもないから、強がりで早くこの場からいなくなってしまえ、なんて。八つ当たりも大概だ。本当は、なっちゃん、じゃなくて、私を選んでほしいのに。
あべに、その選択肢は、ない。
お札を一枚だけ置いて颯爽と去っていくあべからはやっぱり爽やかな香りがして。その中の甘さが酷く私の鼻にこびりつくものだから、目眩がした。
好きにならなければ、こんな風に辛くならない。傷つくことも、心を抉られることもない。
嗚呼。
こんな気持ち、今すぐなくなればいいのに。
消えてよ。
私の中から。
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まのか(プロフ) - もぉぉぉぉぉぉぉ!!最高ですっ!一気に読ませてもらって 仕事の疲れが吹っ飛びました!w更新楽しみにしてますね^^ (2020年8月11日 20時) (レス) id: 496b8676bf (このIDを非表示/違反報告)
セン(プロフ) - すごい面白くてあっという間に読んでしまいました。続きを楽しみに待ってます。 (2020年8月11日 19時) (レス) id: 0585149188 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月叶 | 作成日時:2020年8月5日 0時