☆ ページ32
『今日は本当にありがとね、喜八郎』
「いえ、これくらいどうってことないです」
ようやく全ての仕事を終えた私は、報告をする為に事務室へ戻る事になった。
半日も付き合ってくれた喜八郎には、本当に頭が上がらない。
私は足を止めて、一緒に歩いている喜八郎に向き直った。
『うんん、本当に!なんていうか、その……凄く頼りになった』
頼りになったという言葉に目を見開く喜八郎。
そして、おどおどと口籠もった。
「えっ、そ、その……僕は」
『喜八郎?』
私が突然変な事を言ってしまったから驚いたのだろうか。
あまりにも珍しい喜八郎の様子に、私もまた目を丸くした。
「頼りに、してもらえたなら……良かったです」
『うん!あと……』
私は、会計委員会の後に廊下であった事を思い出す。
喜八郎のあの表情は、まだ目に焼き付いて離れない。
だから、もう一つ。
感謝と共に言わなければいけない事がある。
『かわいいとかたくさん言っちゃって、ごめんなさい!!』
思いっきり、勢いよく頭を下げた。
「え……?」
『あのね、喜八郎に言われたことずっと考えてて……なんとなく分かったの。上級生なのに、子ども扱いしちゃってごめんね』
勿論今とて、私にとって喜八郎はかわいい。
いくつになったって、そう見えるはずだ。
でも当の喜八郎は四年生。
寂しいけれど、もうそんな歳では無いのだ。
「ち、違います!!そういうつもりじゃ……」
喜八郎は呆気に取られた様に硬直していたものの、すぐに首を振った。
まるで溢れる言葉を呑み込む様に俯き、もう一度顔を上げる。
「僕は、確かに上級生です。ですが、かわいいと言われるのは……あなたになら、嫌じゃない」
『ほ、ほんとうに?』
私が思わず聞き返すと、喜八郎は真っ直ぐな瞳で私を捉えた。
「ほんとです。僕はただ……貴女のこと、ず、ずっと前から……」
『え?今、なんて……』
喜八郎は、なんと言ったのだろう。
絞り出したようなその声はとても小さくて、私には聞こえなかった。
「……いえ、なんでも」
『えっ』
「僕、そろそろ戻ります。Aさん、お疲れ様でした」
くるりと背を向けて、行ってしまう喜八郎。
私はすぐに待ってとその背中を引き留めた。
『あの、今度改めてお礼させて!食券でも甘味でも、なんでも!』
「お礼……では、」
そうして、私の長い一日は幕を閉じた。
?「喜八郎……やはりそうか、お前も……」
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海鈴(プロフ) - まみむーさん» わぁあとっても嬉しいです!!頑張ります! (2021年6月23日 22時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
まみむー(プロフ) - 面白い作品の予感……!更新楽しみにしてます^ ^頑張ってください! (2021年6月23日 21時) (レス) id: 53993a59b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海鈴 | 作成日時:2021年6月22日 22時