☆ ページ23
「綾部喜八郎?」
『喜八郎、いいの!?』
私と吉野先生が驚いて向き直ると、喜八郎は心外といった表情で頬を膨らませた。
「なんでそんなにびっくりするんですか」
『ご、ごめん……でも』
記憶の中の喜八郎は、常に穴を掘っていた。
いつだって考えるのは穴の事、それ以外は上の空。
こういう時、真っ先に名乗り出るタイプでは無い。
「しかし綾部喜八郎、委員会の仕事は?」
そうだ、喜八郎も活動があるんじゃ……
吉野先生の問いに、私は大きく頷く。
喜八郎はいいえ、と首を横に振った。
「作法委員会は既に今期の予算会議の準備は終えてますし、立花作法委員会委員長もAさんの為なら文句なしかと」
私と吉野先生は顔を見合わせる。
自らがやると言っている上に、委員会活動も問題無し。
そうくればもう遠慮する理由は無かった。
「そうですか?では……」
『ありがとう〜!!喜八郎』
「……いえ、別に」
……あれ、ちょっと馴れ馴れしかったかな?
私は思わず立ち止まる。
笑顔でお礼を伝えたが、目を逸らされてしまった。
もしかして、やっぱり手伝いは嫌なのだろうか。
そうかもしれない、あの資料の山を見れば……
「Aさん、行きますよ」
『えっ』
振り返ると、台車に手を掛けた喜八郎がこちらを伺っている。
私が暫し逡巡している間に、準備を整えていたらしい。
そのままスタスタと進む喜八郎の背中を、急いで追いかけた。
『あっ、ちょ、待って!台車、私が持つ』
「いえ、僕が持ちます」
『でも、重くない?』
「重いから僕が持つんです……これくらい大したことないですから」
そう言われると、何も言い返せなかった。
確かに、今では私より喜八郎の方が力持ちかもしれない。
手持ち無沙汰のまま、進んでいく喜八郎の後を歩く。
無言の空間のとんでもない気まずさに、私は口を開いた。
『ごめんね、付き合わせて』
「なんで謝るんですか?」
『その、嫌かな、って』
「おやまあ、誰がそんなこと」
これまた予想外といった様子で喜八郎は目を丸くする。
そして、口籠りながら俯いた。
「小松田さんは僕の掘った穴に落ちましたし、その、それに……昨日だって、ぜんぜん話が出来なかったから」
予想外の答えに、え、と腑抜けた声が出る。
昨日というのは、もしや歓迎会のこと……?
確かに昨日は、四年生とあまり話せなかったような。
それって、つまり……
私は、胸がいっぱいになった。
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海鈴(プロフ) - まみむーさん» わぁあとっても嬉しいです!!頑張ります! (2021年6月23日 22時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
まみむー(プロフ) - 面白い作品の予感……!更新楽しみにしてます^ ^頑張ってください! (2021年6月23日 21時) (レス) id: 53993a59b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海鈴 | 作成日時:2021年6月22日 22時