染まれ2(ar) ページ13
仕事はやや巻きで終わり、予定通りサウナを終え、焼肉屋に入る。予約していた奥の個室に通される。店員さんが「お決まりになりましたら…」と言ってくれているのを遮って、
「あ、注文お願いします。」
といって、その場で注文を始める。いつものように俺が適当に見繕って言っていく。もちろん知念の好物は最初におさえている。知念は当たり前のようにメニューすら開かず、口角をあげてこちらのやりとりを見ていた。飲み物は、と聞くと、ミネラルウォーターと、答えが返ってきて、それを俺が店員さんに伝えるというなんとも二度手間な手順を踏み、オーダーを完了する。
飲み物とお通しがきた時には、かなり話は盛り上がっていた。最近気になっているエンタメの話、筋トレの話、メンバーの話など、話は尽きない。会話を楽しみながら、時計を確認する。お肉の到着に思ったより時間がかかっている。
「お待たせしました。こちらが牛タン、こちらが‥‥。」
店員さんの説明を聞きながら、早速牛タンを焼き始める。その様子に鋭い知念はピンときたようだ。
「大貴、さっきから時計気にしてるけど、このあとなんかあるの？」
「実はもう1箇所、知念を連れていきたいところがあってさ。」
「なに？」
「映画。この前見たんだけど、すっごくよかったから。」
「あー、そういうことかぁ。」
焼けたよ、と言いながら、おそらく知念好みの加減に焼けた肉を取り皿に置いてやると、いただきまーす、といってレモンをつけて口へ運ぶ。
「うまぁ。」
幸せそうに牛タンを食べる姿を見て、俺も一枚食べる。控えめなリアクションが、思わず溢れてしまいました、という感じがしてまたいいのだ。こちらまで幸せな気持ちになるし、100倍美味しく感じるというものだ。
「知念、ネギあるよ。乗せる？」
「ほしいほしい〜。ありがと。」
お行儀よく、右手で口元を隠し、箸を置いてネギを待つ。俺は当たり前のように、トングひとつかみのネギを、知念の取り皿に乗せた。
「あ、そういえばその映画雄也も観たんだって。おもしろいって言ってたー。てか大貴、今日誘った目的、本当はそっちだったでしょ。」
さすが。よくわかってらっしゃる。次の一枚を知念の皿に乗せながら、
「いやいや、どれもメインですよ。」
と答えると、間髪入れずに
「うそだぁ〜。」
と言われた。
「もちろん映画も僕が出させていただきますんで。」
「仕方ないなぁ、行ってやるよ。」
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作者名：misto | 作成日時：2023年10月30日 20時
