同居人以上、家族未満【大橋】 ページ8
『ただいま〜……』
たぶん、私の生活は普通じゃない。
今の会社に就職して四年、特に趣味もないからひたすら仕事に打ち込むという割と社畜気味なアラサー女が、残業後疲れた足を引きずって帰る家には
「あ、Aさんおかえりなさい！」
ピチピチの男子大学生が待っているのだから。
「お仕事お疲れ様です」なんて労いの言葉で私は生きていける気がする。
今日も今日とてフレッシュな笑顔を向けてくれる彼こと大橋くんは、実は歴半年の同居人である。
『なんかめっちゃいい匂いする……』
「んふふ、今日の夜ご飯はねぇ、カレーです！」
『うあ〜嬉しい、ありがとう大橋くん！』
キッチンから漂ってくるスパイスの匂いが食欲をそそる。
「手洗いうがいして早よ一緒に食べましょ！」なんて言う彼に背中を押されて、小走りで洗面所に向かった。
ひょんなことから始まったこの生活。
金欠大学生と社畜OLという異様な組み合わせは、私が家賃を多めに払う代わりに大橋くんが諸々の家事をやってくれるという、お互いが補い合う絶妙なバランスで成り立っている。
それと一つ言っておくと、大橋くんはめちゃくちゃ料理が上手い。
『ごめん、お待たせしました〜』
「いえいえ〜」
少し遅れて私が椅子に座ったところで、せーので手を合わせる。
「『いただきます！』」
一口食べた瞬間、疲れた体に染み渡る美味しさに感動する。
そんな私の様子を見て彼はくふ、と笑った。
「Aさん、毎回美味しそうに食べてくれるから嬉しいわぁ〜」
『やって美味しいねんもん、ほんまに。お店に出せるレベルやで？』
「ひゃっひゃっ、ありがとうございますぅ」
独特な引き笑いの後、大橋くんはふざけたように語尾を伸ばす。
私は真剣に言ってんのになぁ。
そのまま喋りながらご飯を食べ進めていたら、なんとなく付けっぱなしだったテレビからは21時のニュースが流れ始めている。
今日もご飯の時間は遅い。
やのに毎日夜は一緒に食事をする、という慣例がこの家にはあるのだ。
『大橋くん、私帰ってくるん遅い日は先にご飯食べといていいのに』
遅くなるときはちゃんとLINEするし。
そう言ったのに、彼はむっと唇を尖らせて「嫌や」なんてずばっと言う。
『え、なんでよ？』
「やって俺、Aさんと一緒に食べたいし」
思わず目を瞬く。
……なんでこの子は、そういう勘違いされるようなことを言うかなぁ〜
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作者名：ぽて子 | 作成日時：2023年6月23日 19時
