８５．美しい景色 ページ35
買い物を終えて、今度はAがサンジを案内をするように道を進んでいた。
Aの行きたい場所へ行くために。
ブルームフォレスト：花畑と隣接する自然豊かな森林
をくぐり抜け、
ビジューレイク：濁りひとつない美しい湖
の横道を通った先に、
その場所はある。
ブルームヒル：花ざかりの丘
この丘から一望できる 美しい景色 が大好きだった。
ブルームヒルには一人の先客がいた。
画家らしき女性は
白のキャンバスに色を載せようとしては、
筆を止めるという動作を繰り返していた。
挨拶を交わして、話を伺う。
女性は何十年とこの島に住んでいるのだそうだ。
「この丘からの景色は本当に素晴らしかったのよ」
「記憶を頼りに描いてみようと筆をとってみても、どうしても描けなくてね」
“ブルームハーバーがなくなったのはおまえのせいだ！”
「ごめんなさい」
「どうして謝るの？あなたのせいじゃないわ」
わたしのせいなんです
わたしのせいだから
だからもう許して
「…ごめんなさい」
「すみません マダム 失礼します」
サンジはAを連れて、丘を下り、静かな場所を探して、木のそばに腰掛けるスペースを用意した。
あの丘から 美しい景色 を見渡せたのはかつてのこと。
自然は崩壊し、湖は濁り、丘の上から一望できたブルームハーバーは荒れ果てている。
サンジ君と見たかった景色はこれじゃない。
それでもあの場所へ行こうと思ったのは、
この土地の美しい景色を取り戻す決意表明みたいなものだった。
いざ 失われた景色への絶望を目の当たりにすると、
たとえ責められているわけでなくても、
胸がきつく締め付けられた。
動悸がして、目の前が暗くなってきて、なにも考えられなくなっていく。
苦しい、つらい、痛い
自分が自分でなくなっていくように、
奥底に閉ざしたはずの闇が
心を埋めつくしてしまう。
「こうなったのは、きみのせいじゃない」
なにが…わかるの
「サンジ君になにがわかるの」
ちがうのに、こんなこと言いたいんじゃないのに。
「知ったような口を聞いて悪かった。でも本当にAさんのせいじゃないだろ」
どうして…
あなたはいつもそうだ。
どうして、なの。
「どうしてそんなに、やさしいの」
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作者名：NAV | 作成日時：2023年11月1日 22時
