８４．ランチデート ページ34
出航まで一日をきっている。
明日を迎えれば、つぎはいつ会えるかわからない。
このままではダメだってわかっているのに、
自分の心をうまくコントロールできない。
考え込んでいたために、
後ろから忍び寄る足音に気づかなかった。
「可愛いお嬢さん」
声をかけられて初めて存在に気がつく。
「よろしければ ご一緒にランチでもいかがでしょう？」
懐かしさを感じさせるセリフ
「買い物があるので」
声の持ち主は振り返らなくてもわかる。
「失礼します」
気づかないフリをして
冷たく言えたはず。
「手伝わせて。ほら行こう」
取られた手を
振り払うなんてできなくて。
フラワービレッジに到着した今の今まで
繋いだ手は離さなかった。
「あの 買い物」
絞り出した声は小さかったが、
彼の耳には届いたようだった。
「荷物になる。買い物は後にしよう」
「？…どこへ行くの」
「昨日、この辺りで気になるレストランをみつけたんだ。一緒に行ってみないか」
冗談だと思っていたが、どうやら本気だったよう。
「もちろん Aさんがよかったらだけど」
「あなたは…はやく帰らないとみんなが困るんじゃ？」
「気にしなくていい。今日は一日Aさんのボディガードがおれの任務だ」
「Aさん どれにする？」
勢いに任せてお店に入ってしまって、
ちゃっかり食べたい料理まで注文してしまった。
ナミさんに頼まれた買い物も急用じゃないと言われていたし、
今はサンジ君との食事を最後の思い出だと思って楽しもう。
昼食後〈出航まで残り16時間〉
あたたかな陽が雲の隙間から差し込む午後
お腹が満たされた午後は決まって眠くなっていたのに、
今日は緊張からか少しも眠くならなかった。
「このあと どうしようか」
あとすこしだけなら
ゆっくりしてもいいかな。
緊張はするけど、嫌じゃない。
少しでも長くあなたといたい。
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作者名：NAV | 作成日時：2023年11月1日 22時
