６７．見え透いた嘘 ページ17
サンジside
「ありがとう さよなら」
一度もこちらに目を向けないまま、Aさんは去ろうとする。
これでいいのか…？
これがAさんにとっての幸せなのか？
「家に帰るのはAさんが望んでのこと？……それが本当の気持ち？」
「そうだよ」
Aは立ち止まったが、振り返ることなく答えた。
「おれの目を見て、もう一度 言ってほしい」
「そうすれば信じる」
「もうAさんを引き止めたりしない」
なにも言わずに去ろうとする後ろ姿
「待ってくれよ」
腕を掴み、引き止めると、
痛そうに顔を歪めた。
まさかと思い、袖をめくると、腕には新しい火傷があって、気まずそうに顔を
Aさんを傷つけるような奴が
「……船には戻らない。家に帰るって決めたの」
「わたしは守られなくても もう平気だから」
言う通りに目を合わせて、伝えてくれた。
それは 見え透いた嘘 だった。
瞳は揺れていて、さみしいと言っていた……あの時と同じだ。
初めて会った日、出逢った街でも彼女は嘘をついていた。
“平気”というのはきっと口癖だ。
仲間のために命を懸ける姿を何度も見てきた。
Aさんが強いのは知っているし、もちろん信頼している。
だが 彼女について知っている事はまだほんの一部にすぎない。
「Aさん」
手を繋ぐと、大きく肩が揺れた。
手を振り払われ、船を飛び降り、走り出す。
慌てて追おうとすると、つぎの瞬間 首から下げていたカメラを海へと投げた。
Aさんが大切にしているカメラだ。
いつでも自分から見える位置に置き、
常に行動をともにして、濡らさないよう注意して、
壊さないように気を使っていた。
それほど大切なカメラを自ら海に投げ捨てたのだ。
ポチャンと海面で音を立てて 海底へ沈んでいく。
サンジは
カメラを手に陸へあがると、すでにAの姿はなくなっていた。
-カメラを海へ投げた理由-
サンジはAがカメラを大切にしていることを知っている。
そのカメラを海へ投げれば、必ず取りに向かう。
たとえ引き止められたとしても、カメラを取りに向かう隙に逃げることができる。
これはサンジの優しさを利用した計画のうちだった。
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作者名：NAV | 作成日時：2023年11月1日 22時
