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それからすぐに、婚約者の彼と一緒に住むことになった。



一緒に住むと言っても、私たちの関係は例えるなら家政婦と雇い主。



私はただ彼に言われることと家事をこなすだけだった。



両家の親から籍をさっさと入れろと言われても、相手は頑なに入れようとしなかった。



自分の本当に愛する人のためなのか、はたまた私が傷物にならないためなのか。



真意はわからなかったけど、さっさと私を受け入れるか捨てるか、ハッキリして欲しかった。















大学を卒業してからしばらくすると、私の旦那になる予定だった人は別の女の人と行方を眩ませた。



テーブルに置かれたお揃いで買わされた婚約指輪にはなんの思い入れも情もなくて、ただの鉄の塊を置いていかれても困るだけだった。



相手方の両親がひたすら謝りに来たけど、私も父もただ黙っているだけだった。



小さい頃から唯一私を気にかけてくれていた兄は、実家に帰ってきた私を見て、酷く傷ついた顔をした。



大好きな兄にそんな顔をさせる自分の存在が心底嫌だった。








「気の毒だったな。」

「いえ。」








私を気遣う言葉を吐く父の前には、知らない男の人の写真が置かれていた。



あぁ、きっとまた私は取引のお菓子として使われるんだと察した。



こんな時に思い浮かぶのは、三白眼の目を細めて笑う彼。



あぁ、私、なかなか好きになった人を忘れられないタイプなんだと、初めて知った。






新しい人に嫁に出すという話が正式に彼の口から告げられた時、声を荒らげたのは以外にも母で。








「自分の娘が死んでいく様子を、これ以上黙って見てるなんて耐えられません!」








そう言って、母は震える手で私と兄の手を引いて家を出てくれた。



「今さらなんなんだよ。」とか色々思うことはあったけど、この時手を引いてくれなかったら、私はもう元の私には戻れなかった。

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作者名:桜海 | 作成日時:2020年5月28日 23時

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