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カレーでも作ろうかと思って必要なものを切っていると、玄関の方から亮平の声が聞こえた。
少しにやけてしまったのはここだけの話。
「おかえりー。」
「ただいまー。何作ってくれてるの？」
「カレー。」
「えっ、まじで？やった！」
嬉しそうに頬を緩ませながら後ろから抱きついてくる亮平を引き剥がそうともがいてみるけど、全然離れてくれない。
首元で話されると少しドキドキするからやめてほしい。
「嫌？」
首をこてんと倒す亮平はほんとにあざとい。
恥ずかしいからやめて、と言うことも恥ずかしく思えて、手元に目線を落とす。
「嫌じゃないけど、危ないから。」
「しばらく我慢して。」
「付き合ったら甘えたなの？」
「今日だけ。」
「…仕方ないなぁ。」
なんか猫みたい。
仕方ないので包丁を置いて正面から抱きしめてあげようとすると、優しく頬を包まれ、彼の唇がそっと触れた。
あまり顔が赤くならないはずなのに、どんどんと顔に熱が集まるのがわかった。
幸せそうに笑う彼に、少し頬を膨らまして抵抗してみた。
「何笑ってるの。」
「顔真っ赤だから。」
「真っ赤ではないでしょ、私赤くなりづらいし。」
「でも、Aにしたら顔赤いよ。」
「…意地悪。」
ぎゅっと抱きしめられる。
背中に手を回せば、痛いくらいにたま抱き締め返してくれた。
あの日別れた私たちは、まるで “ みずうみ ” に溺れた哀れななにかだったけど。
貴方はそれを乗り越えようと、必死にもがいて、這い上がって、私も一緒に引き上げてくれた。
あの世界は、私たちに1番遠い世界だったね。
END
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作者名：桜海 | 作成日時：2020年5月28日 23時
