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そんな空気を蹴散らすように、私のスマホが鳴った。



発信源は知らない番号。



ストーカーのことがあったからか不安そうに見つめる兄を横目に、私はなんだか出なきゃいけない気がして、電話に出た。








「もしもし。谷山Aさんですか?」








「佐久間大介です。」と名乗る電話の主に思わず大きい声を出してしまった。



そう言う彼の声は、確かに前会った時に聞いた声と似ている。








「阿部ちゃんのこと、好きですか?」








その質問に身が固まった。








「この間会った時の雰囲気、どう見ても両想いだ!って感じだったのに、なんか最近の阿部ちゃんの様子おかしくて。あ、これ絶対にAちゃんと何かあったなーって思って。」

「…」

「阿部ちゃんのこと、好きですか?」







もう一度言った佐久間さんの声は強くて、自分の心にしまった本音を呆気なく口に出してしまった。








「彼の足でまといにはなりたくないんです。」

「…」

「彼の人生を壊すことになるのは、どうしても嫌だったんです。」








そんな私に、彼は力強く言った。








「Aちゃん。俺らジャニーズの前に、人間なんだよ。」








その言葉に、心が晴れていく気がした。








「俺らだって普通の人間だよ。だから当たり前に恋もするし、大切な人に隣にいて欲しいとも思う。両想いなのに離れるなんてもったいないよ。」








佐久間さんの言葉は、あんだけ頭から離れなかった母の言葉よりも離れなかった。








「Aちゃん、阿部ちゃん、熱出したの。」

「え…」

「阿部ちゃんのことをもう一度考えてくれるなら、今から言うところに迎えに来てあげて?」








私の心はもう決まっていた。















目的地について外で待っていると、すぐに私を指さして手を振る小さな彼と、隣にいる彼の姿が見えた。



想像していたよりも熱い彼の体温に、後悔とともに決意も固くなった。








「佐久間さん、ご迷惑おかけしてすみません。」

「ほんと!阿部ちゃん凄かったんですからね?」

「…はい。でも、もう大丈夫です。明日には元通りの阿部亮平をお返しします。」








佐久間さんは満足そうにして建物の中に戻っていく。



私を見る彼の目は動揺していて、心做しか潤んでいた。



そんな彼に優しく微笑んで、彼を支える手に力を入れた。

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作者名:桜海 | 作成日時:2020年5月28日 23時

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