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しまった、と思ってももう遅くて。
彼はすぐに電話に出てくれた。
「もしもし！」
嬉しそうなその声に、涙が出る。
同時に申し訳なさや、弱い自分への嫌悪感が押し寄せてくる。
「…A？」
「…ぁっ…」
「どうかした？何かあった？」
心配そうになる彼に、間違い電話だと伝えたかった。
何事も無かったように、ただ声を聞いて切りたかったのに。
言葉が上手く出てこなかった。
今の私の状態を亮平が気づかないわけがない。
もう、無駄な抵抗だな。
「今どこにいるの？」
「…としょ、かん、職場の…」
「今から行くから、絶対にそこから動かないで。」
「りょうへ、」
「大丈夫だから。」
「っ…」
「謝らないで。」という彼の声が聞こえた気がした。
なんでそんなに優しいの。
あんな態度をとったのに、なんで気にかけてくれるの。
「大丈夫だよ。」
「…」
「大丈夫、電話は繋げたままにしとこうか。」
喧騒と、何人かの話し声が聞こえる。
今大事な人たちとなにかしてたんじゃないの？
なんで来ようとしてくれてるの。
裏口の扉が開く音がした。
亮平の優しく私を呼ぶ声が聞こえて、全身の力が抜けて、私を探す背中に駆け寄ってしがみついた。
そんな私に亮平は向き合って、優しく抱きしめてくれた。
少し亮平も震えてる気がした。
「頼ってくれて、ありがとう。」
その言葉にどれだけ救われたのか、あなたは知らないでしょ。
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作者名：桜海 | 作成日時：2020年5月28日 23時
