溺れて、みずうみに (ページ30)

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翌日、私は河原井さんにそれを見せると、顔を真っ青にして自分の事のように心配してくれた。

警察に行くように言ってくれたけど、これ以外にやられたことはまだないし、とりあえず様子を見たいと伝えた。

「せめてお兄さんに連絡！」

まぁ確かにそれくらいはしておいた方がいいかと私も思ったので、その日のお昼休憩の時に電話をかけると、今日の夜から送り迎えをしてくれるらしい。

大好きな兄と会える頻度が多くなったな、とその時はポジティブに考えた。

しばらくして、兄が取引先に向かう途中に怪我をした。

そんな大した怪我ではないと兄は言ったけど、ポストに入った紙を見て、自分のせいだとわかった。

〈お兄さん、僕達の仲を引き裂こうとするから、意地悪しちゃった〉

急いで部屋に入って、その紙を床に投げつける。

最近はなんとなく視線を感じるようになってきたし、無言電話がかかってくることもしばしばあった。

警察に行って、さらに被害が大きくなったらどうしようとか、河原井さんにまで迷惑をかけたらとか、思うことはいろいろあったけど、1番に浮かぶのは、亮平の顔。

デビューも決まって、たくさんテレビ出て。

この前見に行ったLIVEだって、すごく頑張ってた。

そんな彼にまで危害を加えられるかもしれないことが1番怖かった。

そんな思考の中、鳴り響いた着信音に気が狂いそうになって。

「阿部亮平」と書かれたその画面ほど、安心して恐ろしくなるものは今はない。

混乱した脳みそは考えることを放棄していて、出ることがやっとだった。

「もしもし。」

「もしもし。」

「今大丈夫？」

「うん。」

「よかった。」

彼の声を聞いていると、だんだんと落ち着くことが出来た。

でも、「ねぇ、またどこか行きたい。」という彼の要望にまた身が固くなる。

亮平に危害が加わるかもしれない。

でも、口は勝手に「どこ行こっか。」と言っていて。

それを楽しそうに話を続ける彼に、久々に笑う。

これで最後にしよう。

そう考えた時、彼がメンバーと楽しそうに遊んでいた遊園地が思い浮かぶ。

最後は彼と定番の場所に行きたいと思った私は、躊躇いながらそれを言う。

彼は張り切っていた。

「楽しみにしてる。」

亮平との最後のお出かけ。