溺れて、みずうみに (ページ23)

今日:3 hit、昨日:8 hit、合計:59,306 hit

２３ページ23

河原井さんのレッスンは不器用な私にとっては地獄で、前日にはもうヘトヘトだった。

ソファに倒れ込み、しばらくぼーっとしていると、スマホが着信音を鳴らす。

スマホには「阿部亮平」と書かれていて、とくになんの躊躇いもなく出る。

「もしもし、今大丈夫？」

「うん、大丈夫。何かあった？」

「明日の事、決めようと思って。」

「あぁ。うん。」

そうか、明日なんだ、お出かけ。

なんだか急に緊張しちゃって、若干言葉がつまる。

きっと亮平にはバレているんだろうな。

ふと彼がまた話さなくなったのに気づく。

「また考え事ですか。」

「えっ、あ、ごめん！」

「電話中に考え事はやめてくださーい。」

前の時と同じようにからかうと、彼は「それ。」となぜか指摘をしてきた。

「ん？」

「前の電話の時も言ってたやつ。実は凄いきてる。」

「…えっ。」

「嫉妬されて喜ぶ人の気持ちがわかった。実感してる。」

そんなつもりで言ったわけじゃないけど、よくよく考えればかまって欲しいと言っているようにも取れる。

「そういうつもりで言ったんじゃない。」

「あはは、ごめん。うん、わかってるよ。」

「その声はわかってないやつ！」

「あはは。」

必死に抵抗しても、彼は真に受けていない。

これ以上何か言っても逆にからかわれるだけだ。

そう思って、ほぼ無理やり話を戻せば、彼も戻ってくれた。

「どこに行きたい？」

「あまり人がいないところ。」

「相変わらず人混み苦手だね。」

「騒がしいところより静かなところの方が落ち着くでしょ？」

「まぁね。じゃあ神社仏閣めぐりでもいく？」

「いや、極端！」

冗談で言ったんだろうけど、独特なそのチョイスは私の笑いのツボに入った。

落ち着いてからそこに行きたいと伝え、私たちの初めてのお出かけは神社仏閣ツアーに決定した。