溺れて、みずうみに (ページ11)

今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:59,318 hit

１１ページ11

それからごく普通の家の生まれだった母の実家で、祖母と一緒に住むことになった。

父方の祖父母は私が物心着く前に亡くなっていたし、母方の実家とはほぼ関わりがなかったから、私の記憶がある限りでは祖母とは初対面。

そこで初めて、母の旧姓は今と同じ谷山だったんだと知った。

だから両親が離婚したあとも名字は変わらないままだった。

それからなんとなくで近くの図書館に就職した。

仲野さんは精神的に参った私をあたたかく迎え入れてくれて、優しく色んなことを教えてくれた。

母のことも普通に「お母さん」と呼べるようになって、そんな私たちを見て兄は嬉しそうな顔を浮かべるから、私も嬉しくなった。

1ヶ月もすれば、私は大学に通っていた頃あたりの精神状態まで回復することが出来た。

一人暮らしをしてみたいという私の希望に心配そうな顔はしたものの、母も兄も祖母も応援してくれた。

一人暮らしの部屋は今まで過ごしてきたどの部屋よりも狭かったけど、不思議と心が満たされた。

人並みの生活を過ごせるようになって、今日もいつも通り動画に映る彼を見る。

辛い時、なんだかんだ支えてくれたのは彼の笑顔。

別れてからも、私の芯の部分を守ってくれていた。

だから、当たるわけもないのに、運試しのように彼が出ると聞いたLIVEのチケットを申し込んだりして。

いちファンとして彼を支えることで、少しでも恩返しがしたかった。

当選発表いつかな、なんて調べている時、スマホが急に震え始める。

そこには、ずっと恋焦がれていた彼の名前がかかれていた。

もう私の事なんて忘れているかと思っていたから、純粋に嬉しかった。

でも、テレビを見れば彼がいる。

私の存在はきっと、ジャニーズとして生きる彼にとっては邪魔なもの。

彼に私は相応しくない。

そう考えている間にもずっと鳴り続ける音が「そんなことないよ。」と言ってくれている気がして、気づけば電話に出ていた。