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人気のない、悪くいえば寂れたカフェに入り、一番目立たないであろう席に座る。
「何頼む？あ、ご飯は？」
彼にそう聞かれたが、緊張でお腹なんて減るわけが無い。
デザート類でいいと伝えると、彼は私に合わせて同じケーキを頼んでくれた。
「ケーキ、美味しいといいね。」
「美味しいと思うよ。」
周りを確認して、そっと彼はマスクを外した。
YouTubeで見てた彼が目の前にいる。
彼は芸能人なんだと現実を見せられた。
彼と出会ってから何度感じたかわからない胸の痛みを誤魔化すように、「なんか芸能人と会ってるみたい。」なんて冗談交じりに言えば、それに突っ込んでくれる。
でも何だかぎこちなくて、とうとう彼はそっぽを向いてしまった。
運ばれてきたコーヒーを何度も飲む彼に、我慢しきれなくて笑ってしまった。
「えっ？」
「緊張しすぎだよね、私たち。」
彼は「お前、緊張してたの？」とでも言いたげな顔をしている。
そしてなんかよくわかんないけど悔しそうだ。
「久々で何話せばいいかわかんないね。あれから…1年？」
「うん。そう。」
「そりゃあ少し距離できるわ。」
「今は何してるの？就職先変わった？」
就職先変わった？
私はあの後すぐに家庭に入ったから、今の職場が初めてで、転職した覚えはない。
あぁ、そういえば、彼には余計な心配をかけたくなくて、適当な大企業の名前を教えていたんだっけ。
「今は図書館で働いてる。」
「ピッタリだね。」
「でしょ？」
私の嘘はバレていないみたいだ。
どんどん嘘をつくのが上手くなる自分が、少し嫌になった。
転職理由が気になったのか何か言いたげな顔をする彼に「何もないから大丈夫だよ。」といえば、「怖い」と呟かれる。
心外だ、私のどこが怖いんだ。
でもその言葉とは裏腹に彼は優しく微笑みながらコーヒーを飲んでいて。
私もあの頃のようにつられてしまった。
「つられ笑い？」
「つられ笑い。」
懐かしいやりとり、懐かしい雰囲気。
でも、何かが壊れそうで、彼の名前は呼べなかった。
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作者名：桜海 | 作成日時：2020年5月28日 23時
