一期一会 (ページ20)

今日:3 hit、昨日:27 hit、合計:163,411 hit

２０ページ20

「無い。どこいった？」

1人誰もいなくなった楽屋で呟く。

歌番組の収録が無事に終わり、楽屋の後片付けをし

て忘れ物がないか最終確認している時、気づいた。

自分の携帯がないことに。

ズボンのポケットに入れてて、後片付けしている時

に邪魔だからポケットから出したのは覚えてる。

でもどこに置いたのかが分からない…。

もうみんな送迎車に乗り込んでるのに…マズイ。

えーっと…と頭の中で少し前の自分の動線を思い出

してフリーズした。

北「なにやってんすか？」

救世主登場だ！！

「あ！北人さんいいところに！！携帯どこに置いた

のか分からなくなっちゃって…ちょっと鳴らしても

らっていいですか？」

北「えー、もう何やってすんか。」

って言いながらも教えた番号をタップして電話をか

けてくれた、なんだかんだ優しい北人さん。

R R R…

北「ずっと呼び出してますけど。」

「聞こえないですね…。あ！！」

集めたゴミを廊下に置いた時、近くに長テーブルがあった。

そこかもしれない！と思い、廊下に飛び出すと案の

定、長テーブルの上で携帯が震えていた。

「北人さん、ありましたー！！マナーモードにしち

ゃってたから聞こえなかったみたいです。」

楽屋の中で電話をかけ続けてくれた北人さんに報告しに行く。

北「もう、しっかりしてくださいよー。」

「しっかりします…。でもありがとうございます！」

さっ、みなさん待たせちゃってるんで行きましょう

と楽屋を出ようとした時、北人さんに腕を掴まれた。

「わっ！どうしました？！」

北人さんは真剣な顔で私の顔を見つめ、少しの沈黙

の後、口を開いた。

北「…いや、なんでもないっす。」

え？！引き止めておいて何でもないわけないよね。

でも、ここで無理に聞き出すのも違う気がして、

「言いたくなったら、いつでも言ってくださいね。

私はいつでもいますから。」

こんなありきたりなことしか言えなかった。

北「あーもう、そういうの調子狂うから。」

そう言って北人さんは私の頭をグシャグシャっとし

て先に出て行ってしまった。

「ちょっ…！もうなんなの、最近の若い子は！」

また1人取り残された私は、戸惑う気持ちも一緒に鞄

に押し込んだ。