一期一会 (ページ19)

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～壱馬～

企画の打ち合わせの後、歌番組収録のリハで俺は納

得のいく結果が出せないでいた。

公私混同は絶対にしたくない、むしろしてはいけな

いというスタンスで今までやってきた。

でも朝のAさんと陸さんのやりとりのことが頭か

ら離れなくて、集中できなかった。

自分のせいでメンバーにも、他のスタッフにも迷惑

をかけてしまっていると思うと、余計に焦り思うよ

うにいかない。

そんな時、陸さんが気を使ってくれて声をかけてくれた。

俺はお言葉に甘えてスタジオを後にして、目にとま

ったスペースにうずくまる。

俺は今、やらなきゃいけない、やり遂げたいことがあるんだ。

今に集中するんだ。

俺はそう頭の中で念仏のように唱えていた時、

Aさんが来てくれた。

彼女はふわりと笑い、俺に１つの飴をくれた。

その飴がまた渋い飴で、ばーちゃんみたいなこと言

うもんだから、俺は思わず吹き出した。

今まで俺らに声をかけてくれる女の人たちは香水く

さくて、やたら甘ったるい飴やら、ブランドのお菓

子を持ってくる。

でも彼女は違う。

そういう見栄とか、相手にどう思われたいとかいう

欲で近づいてこない。

目の前の人に元気になってほしいから。

ただそれだけの気持ちで接してくれる。

そんな彼女からの思わぬ助けに、朝のことから気持

ちが完全に切り替わった。

それからリハも本番もなんなくこなし、逆に周りか

らはめちゃくちゃ調子よくなったと言われた。

ー楽屋ー

慎「Aさんが壱馬さんのこと追いかけてって戻っ

てきたと思ったら壱馬さんパワーチャージされてて

ビビりましたよ。Aさん何者っすか？笑」

壱馬「ド真面目さん、それだけや。」

北「頼りになるね、Aさん。俺らの周りにいない

タイプってゆうか。」

慎「あーそれ分かります。俺も最初の頃思いました。」

北人は鏡で髪の毛をいじりながら、広い楽屋で後片

付けに追われるAさんをチラチラ見ていた。

Aさんの良さを知るのは俺だけでいい。

そんな気持ちがチラッと俺の中で頭を出したが、無

理やり引っ込めた。

俺は今に集中しなきゃいけないんだ。