nostalgic ２

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「ありがとうございました！」



この日のために作った特別なパンの

最後を買ってくださったお客様に深々と下げた頭を上

げる。




ふと腕時計を見ると、時刻はマルシェの終了時間まで

あと少しを指していた。




「さて…、軽く後片付けしちゃうか。」




くるりと向きを変えて動き出そうしたら背後から、




？「すいません、もう売り切れですか？」


「ごめんなさい、今日はもう売り切れで…って、え

っ？！！」





申し訳ない気持ちのまま振り返ると、そこには丸眼鏡

の北人くんがニコニコと立っていたのだ。




「なんでっ…、てかこんなところ誰かに見られたらマ

ズイです！」




チラッと取材の方々を見れば、今は違う場所を撮影し

ているのかそこにはいなかった。




北「うん、だからちょっといい？」




北人くんは小さく自分の後ろを指差して、場所移動を

促す。




「少しだけなら…。あ！カレーパンいりますか？それ

ならお店の方に、」



北「いる、三個ね。」


「三個？！そんな食べれるんですか…？」


北「食えるし。そんなことはいーから早く！」



「いっ今、持ってきます！」





まるでカツアゲされているかのように、私は尻尾を巻

いてお店へ。






「ごめんちょっとだけ、出てきてもいいかな？！」



カレーパンを急いで詰めながら、レジのお金をチェッ

クしていたお母さんに早口で聞くと、快く承諾してく

れた。






その後まだ賑わう人の中を通り抜け、相変わらずヒョ

ロッとした北人くんの背中についていくと、そこはず

っと来ていないのに懐かしい気持ちに包まれるあの場

所だった。




前に来たのはいつだっけ…？



それすら思い出せない。








北「俺は見れてないけど、取材されたんだってね。」




景色を前に、少し後ろに立つ私に振り向いた北人くん

はいたずらに微笑んだ。




「そんな大それたことでは…、」




いやいや、と遠慮と恥ずかしさで私は俯く。





北「人の連絡は無視しておいて、ちゃっかりテレビな

んか出ちゃってさ。」



「う…、」



さっきまでニコニコしていたはずの北人くんは急にム

スッとして、痛いところを突いてきた。





北「まっ、もういいや。俺がガミガミ言う必要もなく

なったし。」


「えっ…、」





いつもだったらもっと問い詰めてくるのに…。


それに「俺がガミガミ言う必要もなくなったし」っ

て、どういうこと？

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