nostalgic

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壱「進路かー…、懐かしいなぁ。

やりたいこととか無いん？」




「それが〜…無くって…。」




壱「一個も？」



「…たぶん…。」





真っ直ぐな楓士雄くんのことだから、やりたい事も無

いこんな私、きっと呆れられるだろうなぁ…。






嘘でもやりたい事はあると言えば良かったと今更、後

悔と恥ずかしさに襲われる。









壱「…ええんちゃうん？やりたい事が今、無くても。

無理に見つけたり、焦って見つけるようなもんじゃね

ーし。」




「えっ…？」






壱「あ、でもやりたい事無いからって何もしないのは

アカンで？小さなことでもええねん。誰かのためにな

ることをし続けてれば、やりたい事の一つや二つがい

つか見つかると思うけどな、俺は。」







楓士雄くんは灰色の空を見上げていた視線を、私に移

す。








今、大人になるためのスタート地点を決めなきゃいけ

ないと思ってた。





あなたはこれになりたいから、ここ。



あなたはこれをやりたいなら、ここね。




そうやって、割り振られた場所に行かなきゃいけない

と思ってた。







そしてそれができない自分がダメな人間で、私だけ置

いていかれてた気分だった。








だけど、それでもいいんだ。




ユズのようにこれというものが無くても、これから見

つけていくで、それでもいいんだ…。






そう思ったらなんだか目頭が急に熱くなり、涙がボロ

ボロと流れて出た。






壱「えっ？！ちょっ…、どした？！」





涙を拭っている中で、姿は見えなくても楓士雄くんの

焦っている声が聞こえる。





「グズッ…ごめんなさい…。」




涙でグズグズな声で、いきなり泣いてしまったこと

と、驚かせてしまったことも含めて謝るといきなり腕

を引かれて彼の懐に。









壱「色々と葛藤してたんやな。」





そう言って抱きしめながら、私の頭に優しく触れる。








こちらの手の内を話していないのにも関わらず、まる

で私の気持ちを代弁してくれているようで、楓士雄く

んの胸の中で私はコクコクと小さく頷いた。









壱「大丈夫や。Aなら絶対大丈夫。」






嗅いだことのないような香水の中、私の涙は止まらな

い。







私がダメなんだと思ってた。



やりたい事も無い自分が。





だけど、私でも大丈夫。


焦って無理に決めなくてもいいいんだ、って楓士雄く

んが教えてくれて胸に突っかかってたものがスーッと

消えていった。

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