それは紙一重 (ページ47)

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目の前のもうすぐ空になりそうな

ジョッキを見つめていると、耳には

カナちゃんの笑い声と、嘉くんの笑い声が。

ほらね、やっぱり私には無理なんだよ…。

「あの子には…彼女になりたいって強い意志がすごい

見えて、自信もあって…。そういう子の方が嘉くんを

幸せにできると思うんです…。それに私は嘉くんのマ

ネージャーという立場であって、やっぱりそういう感

情は抱いてはいけないと思うんですよね…。」

アオイ「まぁね～…、好きになった相手を間違えたと

までは言わないけど、Aの立場と嘉将の立場を考

えたら、躊躇する気持ちは分かるけどね。」

彼等が恋愛をすることは、禁止ではない。

もちろん、私も。

だけど…その関係がマネージャーとアーティストで

は、話が変わってくるのではないだろうか…。

嘉くんの体調不良の期間、私はそれをずっと考えてい

たけれど、結局誰かに背中を押してもらわないと決意

ができなかったのかもしれない…、

「諦める」ということに。

アオイ「子供の頃は誰かれかまわず好きになっても良

かったのに、大人になると立場や関係性を気にして恋

愛しなくちゃいけないなんてね…。色々とやりにくく

なるもんだわ。」

「ほんと、そうですね…。自由が増えたように見える

けど、実際のところ子供の頃の方が、自由だったのか

もしれませんね。」

周りはワイワイしているのに、私たち二人だけしんみ

りしていたら、テーブルの上に置いてあった携帯が着

信知らせた。

伏せていた携帯を手に取って、画面を見るとそこには

久しぶりに見る名前が表示されている。

「っ！…ちょっと電話してきます！」

アオイ「はいよー。」

私は足早に席を立ち、店の外へ飛び出した。

「もしもし…、」

元彼「もしもし、A？俺だけど…。」

久しぶりに聞く昔好きだった人の声は、どこか弱々し

い。

「なに…？」

元彼「あのさ…今って仕事、忙しい？」

「うん…、すっごく忙しい。」

これは、本当。

だけど、少しあてつけのように語調を強めて言う。

元彼「そっか…。少しでも、時間作れない？」

なにそれ…。

そんな弱々しく言ったって、なびかないんだから…。

そう、なびかない…。

だけど私の気持ちはYESとNOで激しく揺れ動き、あ

っけなく彼を受け入れてしまいそうになる。