楔荘が楔じゃなかったら。 (ページ23)

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23　お泊りページ23

灰色の雲は月を隠し、悲しみのあまり月は涙をこぼす。
　月の涙が戸を窓を叩く。
「要。」
「この雨じゃ帰るのは難しいな…。」
「明日の昼までこのままっぽい。」
「んー…。」
　要は少し考え、
「…泊まっていく？」
「いいの!?」
「泊まりたかった？」
「うん！」
「いいよ。今着替えとか布団とか探すね。」
　要は家の奥に行く。
　禊は夕飯の準備を始める。
「ごめん。着替えはあったけど、サイズが…。」
「大丈夫。どうにかなる！」
「あと、布団が無かった…。」
「…。」
　禊は持っていたニンジンを床に落とす。
　禊は震える手でニンジンを拾い、ゆっくり切り始める。
「…一緒に、寝よっか。」
　要はもじもじしながら言う。
「マジか…。」
「うん、マジだね。」
　禊は要から顔を逸らし、ムンクの叫びを顔に表す。
　禊の影で、要は嬉しそうな顔をする。
「シチューくらいしか作れなかった。」
「いいよ。ありがとう。」
　要は一口食べ、
「ん！おいしい！」
「何!?」
「料理上手だね。」
「ま、まあな。」
　禊は嬉しそうに頭をかく。
　夕食を終え、禊と要は別荘にある本を片っ端から開いていく。
「こんなのもあるのか。お、ロシア語の！」
「ソレ読めるの？僕小さいころ開いたきり、一切触ってないな…。」
「ロシア語は友人からある程度教わったんだ。すげぇな。スペイン語の本まである。」
「あ、それの英語版もあるよ。」
「俺日本語版持ってる。」
「凄いね！」
「古い本は親戚のジジイどもから押し付けられるんだよ。全くたまったもんじゃない。」
　禊は困ったように笑う。
　要は話を切り出そうかどうか迷い、口が音なく開閉する。
「ん、要？」
「…あのさ。」
「うん。」
「ちょっと、見せたいものがあるんだ。あ、その前にコレ。」
　要は例の写真を渡す。
「この前、忘れていったから。」
「あ、あぁ。ありがとう。」
　禊は急いでノートの間にしまう。
「じゃ、見せたいもの持ってくるね。」
「おう。」
　要が部屋を出て、禊は写真を眺める。
「少年と少女…。大体の人はきっと、この白い少女と黒い少年の事だと思うだろうが…。」
　禊は写真を光にかざす。古ぼけた写真の美しい女は光を通す。
「今日見たあの子は、この子なのかな…。」
　裏の文字を読む。
「…ニーア・アルヴァンド…。」
　禊は写真を置いて、伸びをする。
「遅いな…。」
「禊。」
　かわいらしい女性の声だった。
「おい要、遅い…。」
　振り向いたとき、禊は言葉が出なかった。