楔荘が楔じゃなかったら。 (ページ21)

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21　別荘ページ21

最近、要と禊は仲が良い。
　嫌好はじつに不機嫌であった。
「嫌好さん？どうかなさいましたの？」
「う～…。」
　言葉は首をかしげる。
　嫌好の視線の先には、禊と仲良く話す白髪の青年。
「あぁ。例の留学生。」
「名前は何だ!?」
「え!?蒼月要とか言ったかな…。ほら、この前話したでしょ。宝石会社の。」
「イケメンで金持ちで頭が良くてってか…。問題は愛だ。愛の重さで決まるんだ。」
「やっぱそうよね！愛よね!!」
「うん、愛!!」
「愛!!」
　何かを共感した言葉と嫌好であった。

「なあ、要。どっかにこう、自然豊かで小説書くのに丁度いい場所知ってない？」
「んー、公園とか？」
「駄目だな…。人ウザい。」
「じゃあ…。」
　要は禊に顔を近づけ、
「…僕んちに来る？」
「お前んち？」
「うん。関東の山奥にね、別荘があるんだ。」
「マジか！」
「その…今度、来る？」
「おう、良いのか!?」
「別に良いよ。お客さんが来てくれるのは嬉しいから。」
「じゃあ今度お邪魔するな！」
　禊は嬉しそうに笑う。
「あ、ごめん。俺バイト行くから。じゃ！」
　禊は要に軽く手を振り、速足でその場を去った。
「あ…。」
　禊の座っていた席の机に、一枚の写真が置いてあった。
「置いてっちゃったのかな…。」
　裏を向いていたそれを拾う。
　要は写真の中の人物に目を見張った。
　銀髪の白い少女と、黒髪の死んだ目の少年。小さな森、木漏れ日。後方の美しい女。
　要は忘れていた、少し引っかかっていた何かを思い出した。
　写真の裏には、
「Nia Alvand」
　要はそれが理解できなかった。

　待ち合わせの、大学の像の前。
「禊！」
　要はレトロで小さな車で迎えに来た。
「車、運転できるんだ？」
「うん。去年あたりにね。」
　楽しく会話しているうちに、別荘に着く。
　廃墟のような古さと、新築のような最近の家。
「不思議。」
「気に入った？」
「うん！」
　要の猫のような笑顔。
　禊はパソコンを片手に、早速庭に出る。
「ここの山全体が庭だから。でも、あんまり生い茂ってる方にはいかないで。熊とか出るから。」
「わかった。」
　森の中、開けた木漏れ日。小川の流れる木陰。
　禊は折り畳みの椅子を広げ、膝の上でパソコンに入力する。
「そうだな…。ここのセリフは…。」
　椅子の背もたれに鳥が止まる。
　禊は気分転換に立ち上がる。
　頭の中に鐘が響く。偏頭痛が頭を刺す。世界が歪む。自我が蝕んでいく。
　禊はその場に倒れた。