楔荘が楔じゃなかったら。 (ページ20)

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20　白髪の鳥ページ20

言葉は柔らかな朝日の下、緊張で収縮する胸を撫でながら、禊を待つ。
「大丈夫…。大丈夫よ、言葉…。」
「でさあ、嫌好。」
「禊さん！」
「お、言葉。おはよ。」
「質問があります！」
「おう。」
「コミケに居ましたよね!?」
「え!?」
「ご友人らしき方に連れていかれるのを見ました！」
「あ、うん。それ俺だね…。」
「そこでです！」
「うん。」
「あ…あの、胸の大きい、栗毛の、美人は一体…やけに仲が良くて恋人なんじゃないかと考えて夜も眠れなくて…。」
　最後の方は声が小さくて聞き取れなかったが、
「あーよくわからんが。そいつ俺の従妹。」
「そうなの!?」
「よく彼女と勘違いされんだよねー！俺に彼女できるわけないじゃん！第一モテねぇし！」
　禊は笑い飛ばす。
「あ、いっけね！俺授業あるんだわ！」
「え、早くない？」
　嫌好が走り出す禊を止める。
「知らねぇの？俺らと同い年で、飛び級で大学教授レベルになった留学生。日本人だけど。」
「知らない。」
　言葉と嫌好は首を横に振る。
「じゃあいいや。それじゃ！」
　禊は走り出す。
「…聞いたことあるかも…。」
「知ってるの？」
「最近有名な宝石会社知ってます？」
「あー、なんか、社長がすっげぇ若くてイケメンってんで有名なアレか。」
「そう。その弟さんがその、留学生…って。」
「…禊、また小説のネタとか言って食い付いたな。」
「え？小説？」
「帰る。」
「え!?」

　禊は目をキラキラ輝かせ、鼻息を荒くして、その留学生の講義を聞く。
「ふおおおおこれは何と良い情報だああああ。」
　ノートにガリガリ書き込む。
「SF系は無理かと思ったが、これは良い！」
　授業が終わり、生徒が次々部屋を出ていく。
「そうか…なるほ。じゃあこの部分は…。」
「随分熱心だね。」
　禊はその声にすぐに反応できなかった。
「…お？」
「何してるんだい？」
　留学生の白い髪が風に柔らかく揺れる。
「…変わった髪色ですね。」
「よく言われる。別に染色体異常とかじゃないんだけどねぇ。だんだん白くなってきちゃって。」
　留学生は困ったように笑う。
「それ、何してるの？」
「えっと…貴方の授業を、小説のネタに使おうと…。」
「ネタ？」
「別にパクリとかではなく！その…勉強と言うか…。」
「別に良いよ。」
　留学生はにっこり笑うと、
「名前は？」
「え…五月雨、禊です。」
「僕は蒼月要。よろしくね。」