【完結】書店員と恋１ (ページ10)

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──そうこうしているうちに、1時間ほどが経った。
長居はよくないよなあと思いつつも、店内を見渡せば席はポツポツ空いている。…まあ、混んでないし……。

若干失礼なことを考えながら、再び本に目を落とす。と、チリン、と入口の鈴が鳴るのが聞こえた。

「いらっしゃ…あれ、北斗じゃん」
「よ」

高地さんが親しげにかける声と、扉が閉まる音。
…知り合いかな？
気になって目線を上げてみればそこには、数日前お客様として知り合った彼の横顔が見えて。

ギョッとして、本で顔を覆った。

なんでこんな時に限って小さい本持ってきたんだ、私。来る前に隣から引っこ抜いてきた本は、3冊とも文庫本だった。

休日にまで、顔を知っているお客様と鉢合わせるのは些か気まずい。
一人奥の席でヒヤヒヤしている私を知ってか知らずか、……きっと、多分、気づいていないとは思うけれど。

まっすぐカウンター席に向かう彼に「こちらを見ないでください」と念を送ることしかできない。席を立つこともできなくなった。

「前来たのいつだったっけ？」
「1…2週間くらい前かな。木曜だよ」
「よく覚えてんね」
「忘れらんねえよあの日は……」
「顔死んでたもんな」

カウンターで談笑する二人の声が、ここまで届く。
そこまで大きい声で話している訳じゃないのに。

安心して本を読むこともできないし、今ばかりは、混雑していない店内を恨めしく思った。

「で、その後ご機嫌は？」
「回復しました。買ってった本、めっちゃよくてさ」
「へえ？」

わあ、ピンポイントでその話になるんだ。

「ちなみに誰に紹介してもらったの？」そう彼に問う高地さんの声色は、面白くなるかも、とでも言いたげに喜色ばんでいて。

項垂れたくなるのと同時に、お願いだから話が飛んでくることがないようにと、心の中で両手を合わせる。