【完結】書店員と恋１ (ページ38)

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J-13、14と書かれたチケットを頼りに席を探してから2時間と少し。結論から言えばそれは、とても美しい恋愛映画だった。

ネットで見た評判を頼りに選んだだけあって、座席のあちこちから鼻をすする音が聞こえる。まさかこんなに感動するとは……

「…言葉が出てきません」
「ほんとう、ですね」

エンドロールが明けて、劇場内の電気がついて。客席から充足感のため息が漏れるタイミングで彼が口を開いた。

「…よかったですね……」
「はい…よかったです。すごく」

彼はもう何も映っていないスクリーンをボーッと見上げながら、「本当によかったなあ……」と呟いていた。

「少しだけ歩くんですが…」と前置きされたお店には、建物を出てから10分ほどで着いた。
通りから裏に入った道にあるそのこじんまりとしたそこは、柔らかな雰囲気を醸している。

「こんにちはー」と彼が引き戸を引けば、美味しそうな匂いが漂った。

「お、松村くん！待ってたよ」
「この前ぶりですね」
「おっ！……へえ？」
「やめてください(笑)」

彼が親しげに話しているのは、きっとこのお店のマスターさんだろう。この前ぶり、なんて言うくらいだしよく通ってるのかな、なんてその人の方を見ていれば、パッと目が合って。

軽く会釈をすると、嬉しそうに口角が上がった。

「奥の小上がり！」
「ありがとうございます」

勝手知ったるように進む彼について行くとそこは、畳が敷かれた掘りごたつの個室だった。
「奥どうぞ」そう譲ってくれた席に腰を下ろせば、落ち着いた雰囲気に、ほぅ、と息が漏れる。

「Aさんはお酒強い方ですか？」
「強い…かはわからないですけど、好きですよ」
「あー、その台詞は強い人の台詞だ」
「どうでしょう(笑)」

一杯目はビールでいいですか？そう聞かれて頷く。
それと一緒に、彼の勧めるまま何品か頼んで、出てきたグラスをカチン、と鳴らした。

2杯グラスを空けて、美味しそうな天ぷらと共に日本酒に移行して。「本当に強いですね(笑)」そう目の下を仄かに赤くした彼も、俺も焼酎呑もうかな、なんて人のことは言えない発言。

それでも無茶な飲み方をする訳じゃなくて、料理と一緒にお酒を楽しんでいる様子に安心した。