【完結】書店員と恋１ (ページ2)

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「ご迷惑でしたらすいません。ただ、何かお探しかな…と」
「……あ、いや。探してた訳ではなくて」
「何かいい本ないかな、といった感じですか？」
「…まあ、そんなとこです」
「そうでしたか」

ゆるく、優しい笑みをひとつ。

目の前で話す彼は、とても綺麗な身なりをしていた。雨に濡れていたとはいえ、髪も整えられて、足元には傷の無い革靴。けれどその顔には疲労が色濃く見えて…何かあったんだろうと察する。

「本探しなら、ご相談にのれますよ」
「え？」
「何か希望をおっしゃっていただければ。"営業がうまくなりたい" とか。"時間をうまく使えるようになりたい" とか」
「……え、っと」
「もし何かありましたら。……あ、ご迷惑じゃなければ、ですけど」

慌てて最後の一言を付け足した。

先にも言ったけれど、ここはお客様と会話をして本をすすめる、割と珍しい書店だ。
だからこそ好きな本を紹介する機会が多くて、いかんせん熱くなってしまいがちで。押し売りにならないよう引き際を見極めるのも、大切な仕事のひとつだったりする。

「…あー……」

困ったように頬をかく彼に、これは引いた方がよさそうだな、と思った。

きっと彼は、自分の中を簡単に外には見せないタイプ。……話してもいいんだろうか、とわかりやすく顔に書いてあるのに、無理に聞き出したくはなかった。

「差し出がましくすいません。もし何かあれば、お声がけくださいね」

カウンターにいますから。
そう言ってその場を立ち去ろうとすれば、後ろから「…あの、」と控えめな声が聞こえて。
振り返ればその顔にはやっぱり逡巡が残っていたけれど。

続けて、彼が口を開いた。

「…悩み相談のような、愚痴のようなものになってしまうんですけど」
「はい」
「それでも、聞いてくれるんですか？」

ゆら、と彼の瞳が不安を映す。

その不安に向かって、笑いかけた。少しでも、彼の力になれますようにと。

「もちろんです。…お名前を伺っても？」
「……松村、といいます」
「松村さん。よかったら、聞かせてください」

◇