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「A、ごめん。話合わせてもらっていい？」
「…え？」
隣に立った北斗が、私の腰に手を回す。支えられるようにして足を踏み出せば、さっきまでのは何だったんだろうってくらい、すんなり足が動いた。
女の人の前に立つ。ふわりと香ったのは……あの子、とは違う香水で。あからさまにホッとしてしまう自分が少しだけ嫌になる。
「この子。彼女です」
「……え」
「で、こちら、取引先でお世話になってる方」
「初めまして！すいません、デート中にお邪魔してしまって」
「あ、いえ…」
松村さんにはお世話になってます、って柔らかく頭を下げられて、つられるように私も頭を下げる。
「彼女さん、お綺麗で…素敵な方ですね？」
「そうなんです(笑)」
「あら、ノロケ(笑)」
「今度うちいらっしゃったときにでも、詳しく聞かせてください？課長ともども聞きますから(笑)」そう言って笑ったその人に、北斗は困ったように笑った。
「それじゃあ私はそろそろ…すいません、突然」
「…あ、いえ、私は…」
「また会えたらぜひ、彼女さんのノロケも聞かせて下さいね(笑)」
コロコロと鈴がなるように笑って、お店から出ていく背中を見送る。明るくて、朗らかで、……いい人だ、と思った。
腰に回されていた腕が離れる。
はあ、と北斗が短くため息をつく。
「ごめん。……嫌だった、よね」
「……」
「その……」
「…私、彼女じゃないよ(笑)」
もう少し話そっか、って椅子に逆戻り。そうしたら北斗は傷ついた顔を隠すみたいに、「…もう一杯買ってくるよ。何がいい？」って。私は何も気づかないフリで、ホットのソイラテを頼んだ。いつの間にか指先が冷え切っていた。
「どうぞ」
「…ありがとう」
差し出されたカップを覆うように手を置く。
「……北斗、あのね」
「…うん」
「やっぱり私…北斗からは離れた方がいいと思う」
「…なんで……？」
呆然とした顔で北斗が呟く。慌てたように私の手首に触れた。そのまま、きゅう、と握り込まれる。まるで、いなくならないでって言われてるみたいに。
「……ほくと、嫌でしょ？」
「なにが、」
「………束縛とか、そういうの」
彼の顔をまともに見られないまま、視線が落ちた。
……さっきの、あの嵐のような感情の痕は生生しく心に残っていた。
北斗と話さないで、っていう嫉妬。私といるよりも楽しいのかも、って思う不安。彼が取られてしまう。そう感じる、恐怖。
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ぬめ娘(プロフ) - 初めまして🙇♀️みそ様の作品がとても大好きなので思わずコメントさせて頂きました✨本当に文章や言葉選びが素敵でどの作品も2、3周拝見いたしました🥰これからも勝手ながら影から応援させていただきます。 (2022年6月27日 23時) (
レス) id: 9b0e8af300 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：みそ
| 作成日時：2022年6月4日 21時
