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「Aちゃん、本読むんだ」
目をまん丸にした北斗くんに言われたのは、大学近くのカフェで時間をつぶしてたときだった。
コーヒーを片手に持った彼に「座っていい？」と聞かれて。置いていた荷物を慌ててよける。
「何読んでんの、…って、聞いてもいいヤツ？」
「え、全然」
かけていたカバーを外して表紙を見せると、彼の顔が綻んだ。「俺もちょっと前に読んだよ、それ」って。「けっこう読むの？本とか」そう聞かれて、頷く。
新刊出たよね、って話。
あの作者さんもいいよ、って話。
ひとりで美術館行ったりするんだよね、って話。
深夜ラジオって面白いんだよ、って話。
私の中に、柔らかい雪が降り積もるように。北斗くんの "好き" が積もっていく。
卒業を、間近に控えたある日。北斗くんから『ドライブ行きたくない？』って突然。
『ドライブ？これから？』
『うん。暇だったらでいいんだけど』
『暇だから準備するね』
『ずいぶんと話早いねあなた』
あったかくしてきて、って言われた言葉の通り、迎えに来てくれた車にコートを羽織って乗り込む。
「どこ方面行く？」って聞いたら、「もう決まってる」って。
── 着いた先は、海だった。
夕日が沈みかけてる、冬の海。
トランクを開放して、そこに腰かけた。自販機で買ったホットコーヒーとホットココアを抱えて。まるでそれは、青春の真似事のように。「…俺、人生でこんなことすると思ってなかった」「私もだよ(笑)」
── ありがとうね、連れてきてくれて。オレンジ色の光がサラサラと反射するそこを眺めていたら、自然とそんな言葉が漏れた。「……なんか、感傷的になっちゃう(笑)」続けて言えば。
……手に。温かいものがふわりと重なる。
「…北斗くん？」
驚いて、彼の方を見る。彼は、私の方を見ていた。
光を浴びた北斗くんは、…信じられないくらい綺麗だった。優しく細められた目も。緩やかに上げられた口角も。彼の全部が綺麗だと思った。それが、ゆっくりと近づいて。……唇が、重なる。
「…好きだよ」
音を立てることもなく離れていったそれ。そうして紡がれた言葉は、私の心まで光で満たしてくれるような気がした。
「……私も」
「…うん」
私たちの始まりは、間違いなくふたりだけの世界だった。穏やかで、優しくて。それがきっと、私たちらしさなんだと思った。
◇
◇
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ぬめ娘(プロフ) - 初めまして🙇♀️みそ様の作品がとても大好きなので思わずコメントさせて頂きました✨本当に文章や言葉選びが素敵でどの作品も2、3周拝見いたしました🥰これからも勝手ながら影から応援させていただきます。 (2022年6月27日 23時) (
レス) id: 9b0e8af300 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：みそ
| 作成日時：2022年6月4日 21時
