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「っ、」
「っあ、ごめ、俺」
思わず声が漏れたら、北斗が慌てて手を離した。
傍から見たら、もしかしなくても。死にそうなくらい張り詰めた空気だったんだと思う。だから田中くんはこのタイミングで、わざと声を出したんだ。
「ふたりとも」って。語気を強めた口調に、ピクリと肩が跳ねる。
「座って。……Aちゃん、座って」
「わたし帰るよ」
「Aちゃん」
「……」
「…なあ。逃げんな」
「っ、」
「……お願いだから。"ふたり" が納得できる結論、出して」
じゃないと俺、ふたりのこと見てらんない。
眉を下げて言った田中くんは、誰よりも傷ついたみたいな、苦しそうな顔をした。……そんな顔されて、誰が断れるって言うんだろう。
彼には聞こえないように、小さく、ひとつだけため息をついた。
元いた席に腰を下ろすと、ほっとしたような顔をした。
「…俺は先出るけど。ちゃんと話して」
「…」
「北斗。ぜってぇ後で連絡寄越せよ」
「……わかってる」
そうして個室の中に残されたのは、私と北斗のふたりだけ。飲み物のオーダーを取りに来たお兄さんが、あれ？って顔をしたけれど、…きっと今まで色々見てきたんだろうな。疑問は出さずに下がってくれたのが、救いだった。
頼んだものが運ばれるまで、沈黙は続いた。
「…A」
北斗が呼ぶ名前に、心が震える。
「…なあに？」
「……今、どこに住んでるの？」
「…北斗が知らない場所だよ」
グラスに入った氷が、カラ、と音を立てた。
やんわりとした拒絶に気づいた彼が視線を揺らす。その顔は前よりも少し、疲れているように見えた。
「……置いてった紙、見てくれた？」
「…見たよ」
「元気で、いてくれた？」
「っ…げんきで、」
ぎゅう、と北斗が強く目を瞑った。
ゆっくり吸って、吐き出した息が震えていた。
「……A。ごめん」
「…なにが？」
「独りにして。…不安にさせて」
「……」
「甘えてた。仕事だからって」
またひとつ、北斗が息を吐いたけど。
…ため息をつきたいのは、私の方だよって思った。
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ぬめ娘(プロフ) - 初めまして🙇♀️みそ様の作品がとても大好きなので思わずコメントさせて頂きました✨本当に文章や言葉選びが素敵でどの作品も2、3周拝見いたしました🥰これからも勝手ながら影から応援させていただきます。 (2022年6月27日 23時) (
レス) id: 9b0e8af300 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：みそ
| 作成日時：2022年6月4日 21時
