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「こちらですね」
「すいません、ありがとうございます」
壁で、死角になってるところからその声が聞こえて。……息が止まった。
顔を見せたその人から、目が離せなかった。
「……A」
バチリと目が合った瞬間、目を見開いて、驚いた顔をする北斗。すう、と一気に酔いは醒めて、血の気が引くような感覚になる。ドッドッと心臓は早鐘を打っていた。
「……田中くん。私、かえる、ね」
ふ、と息を吐いたら、肺の辺りが引き攣った。慌ててカバンを掴んで立ち上がれば、「Aちゃん待って」って腕を掴まれる。
「話してほしい。から、俺が呼んだ」
「…」
「…コイツも、Aちゃんいること知らないで来てる」
「…」
「香耶にはこれから言う。…多分おれ、死ぬほど怒られるけど(笑)」
「…田中くん」
「ん？」
「……ずるいよ」
「…ごめんね(笑)」
暗に、責めないで、って言ってるんだ。北斗のことも、香耶のことも。悪いのは自分なんだって。
…責められない。そんな人のこと。
「……でも、ごめんなさい。帰りたい」
「…」
「話せない。私は…」
「Aちゃん…」
…腕、離して？持てる理性を総動員して、できる限り柔らかく言った。そうすれば、するりと解かれる腕。
「……避けて、もらえませんか」
「っ」
戸の前に立つ北斗の顔は見れなかった。目線を下げたまま彼の前に立って、その体に言う。
彼は、その場から動かなかった。
「……A、お願い」
「…」
「話、したい……」
震えるように紡がれた声は、……私の心の、きっと一番弱い場所を、いとも容易く叩いた。
縋るように、おそるおそる触れられた腕が、別の人のものになったみたいな感覚だった。
「……今日は」
「…」
「香水の匂い。…しないんだね」
北斗が、あの時のことに気づいていたかはわからないけど。わざと、傷つけるように言った。
実際、彼のシャツからはあの日の匂いはしなくて。代わりに北斗がいつも使ってた柔軟剤の匂いがして、懐かしさに、心が潰れそうだと思った。
…彼の手に、ぎゅう、と力がこもる。
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ぬめ娘(プロフ) - 初めまして🙇♀️みそ様の作品がとても大好きなので思わずコメントさせて頂きました✨本当に文章や言葉選びが素敵でどの作品も2、3周拝見いたしました🥰これからも勝手ながら影から応援させていただきます。 (2022年6月27日 23時) (
レス) id: 9b0e8af300 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：みそ
| 作成日時：2022年6月4日 21時
