【完結】淡く柔い鎖 (ページ35)

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わざわざ探さないと、見つからないような場所。スタンドに面した通路の奥は陰になっていて、松村くんは私をそこに座らせた。

逃げられないように、…と思ってるのかな。
手前側に、少しの間を空けて松村くんが座る。

少し前までは、ふたりきりでもあんなに弾んでいたはずの会話。それが今では、気まずいばかりで。
…全部私のせいだってわかってる。けれど、そう理解すればするほど、心は苦しくなっていく。

少しの沈黙の後。

「…ごめん」って、松村くんが言った。

「……なにが？」
「今も、…この前の、ことも」
「…気にしてないよ(笑)」

気にしてなんかないから。だから、早く解放してほしかった。松村くんは何も悪くないから、謝ろうだなんて思わなくていいから。

けれどそんな思いとは裏腹に、松村くんは目を伏せる。「…ごめん」ってもうひとつ、謝罪が飛んだ。

「…だから私は別に、」
「ううん、違くて。…今度はそのことじゃない」
「……じゃあ、何に？」
「………"気にしてない" なんて、言わないでほしかった」
「…なに、」

意味が、よく、わからなかった。

「Aちゃん。…森本と付き合ってるって、本当？」
「……馬鹿にしてるの？」

突然聞かれた言葉に、ス、と感情が抜ける。

仮にそうだったとしても。なんでそんなこと聞くの？ ……行っていい、って言ったのは松村くんだったでしょう？

もう邪魔しないから、って、あの日。

「……もし、そうだったら？」

松村くんとこんな会話をするのは、すごく嫌だった。…あの日を、無理やり振り返っているみたいだったから。
けれどあくまで冷静に、否定も肯定もしないで質問を返せば。

……なんで。あなたが、苦しそうな顔をするの。

「……樹と、奈緒ちゃんに、死ぬほど怒られたよ」
「…？」
「それでいいのか、って、何回も聞かれた」
「……どういうこと？」
「後悔してた。……あの日からずっと。Aちゃんと距離をとってから、ずっと」

手で口を覆って、はあ、と息を吐く。

「……俺、もう、遅い？」

……息が、止まるかと思った。

言葉を区切りながら、彼の視線がゆっくりと私の方を向く。松村くんの顔は苦しそうで、…泣きそうな顔をしてる、と思った。真っ直ぐに彼の気持ちを訴える目。

ぶわりと体中に、熱が集まる。

でも。…でも私には、それを受け取るための資格がない。だって私は一度、あなたのことを。