【完結】淡く柔い鎖 (ページ24)

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え！？ちょ、ハンカチ、って慌てた声が聞こえたあと、…ぐ、と腕を引かれる。

「みんなごめん、ちょっと別行動させて！」
「は？…あ、おい慎太郎！」

Aさん下向いてていいよ、人いないとこ連れてく。森本くんは小さな声で、そう言った。

◇
◇

水族館から出た修学旅行生たちの「イルカショー楽しみ！」なんて楽しそうな声が、耳に入って抜けていく。まるでそれが正しい順路かのように進んで行く彼ら。
だからそれとは反対に進めば、必然的に知った顔はいなくなる訳で。

ゆるやかに坂を降りて、少しだけ歩いて。木陰になるように作られたベンチの前までたどり着いてようやく、掴まれていた腕が離された。

「…座って？」
「……」

言われるがままにストン、と腰を下ろす。そうしたら隣に、同じように森本くんが座る。「…ごめん、ハンカチ持ってなかった」彼が、申し訳無さそうに言った。

ゆる、とうつむいたまま首を振る。
声を出したらそのまま、堰が切れてしまいそうだった。

「…どうしたの、Aさん」
「……」

彼の発した声色は、……どこまでも柔らかい。
あなたのことを、本当に心配していると。そう伝わってくるような声。

ぐう、と喉が詰まる。

「………最低なの、わたし」

その一言を絞り出すのが精一杯で、すぐに言葉が詰まった。……言葉は詰まるくせに、涙ばかり溢れようとするから困る。目を、ぎゅう、とつぶった。

「Aさん」
「……」
「…大丈夫だよ、誰もいないよ」

泣いていいんだよ、って、ぽつりと森本くんがつぶやく。

ふわ、と背中に手がのせられて、トン、トンと優しく触れられたら。……我慢する方が、無理だよ。

◇

数分経ってからようやく、まともに声が出せるようになった。「森本くん、ごめんね」って謝ると、「何が？」って。全然そう思ってないような顔で言う。

わかってるけどはぐらかしてる、みたいな顔。
口角はゆるく上がってる。

「奈緒ちゃん、だっけ。連絡は？した？」
「あ…してない、どうしよ探してるかも、」
「今しときなよ、『図書局の友達と会った』とか言って」

謝れば大丈夫、ちょっとは探してるかもしれないけど。ちょっとはね！未だ背中に優しく手をおいたまま、"ちょっと" を強調して森本くんが言う。

……たぶん。罪悪感を持たせないようにしてくれてるんだ。