贖罪の塔【オリジナルファンタジー】 (ページ12)

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2.凍てついた過去ページ12

香月はまた紅茶をすすると、エルの瞳を真っ直ぐに見据える。懐かしむようなその目からは、悪意など全く感じられない。純粋な色をしていた。

「…時間を取らせたな。もう帰ってもいいぞ」

「…もうすこし、話を聞きたい」

何のためにエルは呼ばれたのだろうか、それはまだ分からない。ただ、目の前にいる凍てついた心を持った断罪人を、ほっといてはいけないような気がしたのだ。エルは、香月の目を見つめ返す。
香月は、そっと目をそらすとため息を吐く。

「わかった」

ただ一言。それだけを発すると、ソファーから立ち上がりいつのまにか飲みきってしまった紅茶を片付けながら、口を開く。後ろ姿なので、エルにはその表情は見えなかったが、声はとても静かだった。

「俺たちの家系は断罪人の家系だった。だが、俺の妹は、ブラックリストに載っていた人間。すなわち罪人と駆け落ちしたんだ」

カップを片付ける手は止めずに、淡々と語る。
エルにそっくりな妹…きっと性格はエルには似ても似つかないだろう。

「そして、二人の子供を授かった。もちろん、その事は俺とその罪人しか知らない。だがな…」

カップを片付け終わり、香月はエルの座る前のソファーに腰掛ける。その瞳は暗くて、深い陰った月の色をしていた。

「罪人が、妹を差し出したんだ。コイツは罪人を庇った罪人だってな。酷いよな…」

香月は、眉を下げながら笑った。覇気のないその笑みに、エルは無表情で見つめていた。無表情の中にも憂いを帯びた、どこかもの悲しげな表情をしていた。

「そして、妹と罪人は贖罪の塔に入れられることなく、処刑された。二人の子供は、同じ断罪人の家系で、信頼できる男女に引き渡されたんだ」