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「おっ『夜鶯姉妹』!今日も2人揃ってべっぴんさんだねぇ」
誰かのそんな声が聞こえてそちらを振り返る。
白衣を翻し歩く美形の女と、ぶかぶかの白衣をたくしあげて隣を行く大きな瞳が印象的な可愛らしい女。
ここ、X0で最も大きな病院に務める外科医の姉妹。2人の可憐な見た目から付けられたあだ名は『夜鶯』。
背が高くて美人な姉の方がふとこちらに目をとめた。途端に薄い唇に優しい笑みが浮かぶ。
「亜嵐さん。お久しぶり」
「叶さん。久しぶりです」
姉の後ろを少し遅れて妹の方もとことこと俺に歩み寄ってきた。院内の皆に振りまく明るい笑顔がこちらに向けられる。
今の俺は、彼女が慈愛と献身を捧げる全ての人間というカテゴリーにしか入っていないのだ。
「白濱さん。お元気そうで何よりです」
白濱さん。そう呼ばれる度に心臓が少し重たくなるような、そんな気がする。
大空に飛んで行ったまま、いつ巣へ戻ってくるかも分からない。止まり木を持たない夜鶯は、その声という癒しを求める者の元へ、次から次へと向かっていく。
どんどん俺から遠ざかっていく。
まさか、こんなことになるなんて。
「…どうにか今回も生きて帰ってこれたみたい。いやぁ俺も結構しぶといわ」
わざと明るい声を出す。自分を奮い立たせるために。
「もう、冗談やめてください。白濱さんが緊急オペ室に運び込まれてきたら私の方こそ心臓止まっちゃいます」
変わらない。出会ったばかりの頃の君と何も変わらないのに、それでも俺と君の関係性は決定的に変わってしまったのだ。どんな因果なのだろう。
「今日は抜糸だっけ?」
「うん。私の担当」
「じゃあA、よろしくね。カルテは看護婦に渡してあるから」
「りょうかーい、お姉ちゃん」
「あ、それじゃ亜嵐さん、今日は患者さんもそんなにいないし、時間があれば3人でお茶でもどう?」
「えっ」
「お姉ちゃんそれいい!楽しそう!白濱さん今日お忙しいですか?」
「いや、今日は何も…」
叶さんがAに見えない角度からぱちりとウインクをして去っていく。やり手の叶さんに心の中で感謝の舞を踊っていると、Aが焦げ茶の大きな瞳を俺に向けた。
「それじゃあ白濱さん、診察室にどうぞ!」
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かな - 続き楽しみです! (2020年10月10日 22時) (レス) id: 95ffd40df7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねこた | 作成日時:2020年9月17日 3時