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「なんかあった？」
「え？」
なんかあったでしょ。確信めいてそう繰り返す白濱さんの目はとても優しい。それでいて心配そうに眉を下げて、どこまで踏み込めばいいのかと迷っているのか、私と白濱さんとの距離感は少しぎこちない。
言い当てられた驚きとこちらに向けられる複雑な感情に、本能がこの人になら、と反応した。
数原さんもそう。この人たちなら。戦場でいくつもの修羅場を乗り越えてきた強者だ、きっとこのくらいのことさらりと受け流してくれるはず。
ひとりよがりなワガママだった。ひとりでこの思いを抱えることに耐えられない弱い私のエゴだった。
「…なんで、分かっちゃうんですか」
白濱さんの目がつ、と泳ぐ。
「分かるよ」
分かるよ、のその後。何か言葉が続くのではないかとそんな予感がしたのは何故だろうか。しかしその予感も再び白濱さんにまっすぐ見つめられたことにより消えてなくなった。
「…記憶が、戻る気配がなくて」
白濱さんが息を飲む気配。逆に数原さんは大きく息を吐いてテーブルに肘をつく。
「そうか」
「はい…昨日お姉ちゃんに見てもらって。もしかしたらこのまま戻らない可能性もあるみたいなんです。それで、ちょっと…落ち込んじゃって」
えへへ、と無理やり発した空っぽの笑い声はコーヒーの中にぽとりと落ちて消えていく。ちらりと2人の顔を伺うと、真剣そのものだった。
やっぱり2人の折角のオフにこんな重たい話をするべきではなかったのかもしれない。申し訳なくなってきて、私は思わず2人に向かって頭を下げた。
「すみません、こんな話」
「いや、俺の方こと踏み込んだこと聞いてごめん」
数原さんの視線が気遣わしげに私と白濱さんを往復する。
「ほんのちょっとでも思い出したりとかはせえへんもんか」
「はい…何も」
テーブルに舞い降りた重苦しい沈黙。
それを破ったのは白濱さんだった。
「大丈夫」
顔を上げる。
真摯で、誠実な瞳がこちらに向けられていた。
「焦る必要はない。みんなのんびり待っててくれるし、もし仮に戻らなくても、覚えていない5年分の楽しいこととか嬉しいこととか、これから先詰め込んでいけばいいと思う。俺は」
「白濱さん…」
なんだろう。どこか懐かしいような。
そんな気がした。
「ありがとうございます」
続く (更新停止中)
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かな - 続き楽しみです！ (2020年10月10日 22時) (
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作者名：ねこた | 作成日時：2020年9月17日 3時
