悪魔執事と黒猫と少年 (ページ10)

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ふっと目を開けると、そこは見なれた天井。いつも寝起きしている部屋のベッドの上で、Aは眠っていたらしい。

(……ゆめ？)

もぞもぞと体を動かすと、一人の男が隣で眠っていた。

「……にーさん」

いつの間に帰ってきていたんだろう。と言うより自分はいつから寝ていたのかすらも思い出せない。
不思議と喉の乾きや空腹感はなかった。
さっきまで見ていた夢が、ベリアンの言う通り嘘ではない気がして、少し怖くなる。誤魔化すように兄の胸に顔を押付けると、ぎゅっと腕に力が込められる。

「……起きた？」
「うん……おかえり」

うっすらと目が開いて、兄と目が合う。寝起きだからか、とろんっとしている。ピリピリとした空気もない。
Aは寝起きの兄が一番好きだった。

「体が冷たい。怖い夢でも見た？」
「……ちょっとだけ」

優しく頭を撫でられて、Aはぎゅうっと首筋に腕を回す。トクトクと心臓の音がして、胸の辺りがホカホカする。
顔を上げると、随分と近くに兄の顔があって少し驚く。兄はAの頬を指でスリっと労わるように撫でた。

「……約束はどうした」
「ごめんなさい……」
「俺のことは庇うな。前に約束したろ」

Aの顔の打撲痕は、兄を叔父から庇ったことで出来たものだ。普段は嫌味をよく会う皮肉屋程度でいいのだが、酒を飲むともう酷いのだ。少しここには書けないようなことも、兄はAの代わりに受けている。
そのことをAがどこまで知っているかはわからないが、少なくとも兄が傷ついていることだけは理解していた。

兄が逃げないのも自分がいるからだということも、兄の縋る先が自分だということも、しっかり理解していた。

だから早く目が覚めたかった。
せめて兄を一人にしたくなかったから。

「にーさんが痛いと僕も痛い」
「……なら庇わない。いい？」
「やだ」

小さく首を振ると、途端に寂しそうに目を伏せ、誤魔化すように額を合わせてきた。Aはなにも言わなかった。ただ甘えるように、その額に小さくすりすりと自分の額を押し付けた。

今日も兄からは煙草のにおいがする。