プロローグ ページ1
こぽこぽと、水の中にいるような音がする。心做しか、肌に当たる風もひんやりとしていた。
キンっと頭の奥が痺れて、ゆっくりと目を開ける。
そこは暗い水族館の中だった。
大きな水槽の前で一人、Aは立っていた。
水槽の中にはなにもいない。
ただ水と岩と石と砂、水草だけが入っている。
上に上がっていく水泡を見つめていると、隣から「にゃー」と声がした。
「……ねこ?」
そこには黒い猫が、じっとこちらを見つめていた。
『こんにちは』
「……?こんにちは」
首を傾げながら目線を合わせて、小さく挨拶をする。
なぜ猫が喋っているのか、ここはどこなのかも、少しも疑問には思わなかった。
『人はみんな心に闇を抱えながら……毎日何とか生きている。
歩みを止めれば、すぐにバランスを崩してしまうから。
なるべく苦痛を感じないように……わざと意識を鈍らせながら……』
「……?」
落ち着いた女性の声で話す猫に、Aは小さく首を傾げる。彼にはなんの事だかさっぱりだった。
『そして、気が付けば時間が流れて……少しの後悔を抱えて死んでいく……
私……貴方にはそうなって欲しくないの。
そして……彼らにも……』
「かれら?」
キョロキョロと辺りを見渡しても、あるのは空っぽの水槽だけ。藍色に塗らねた壁と、黒い床に反射する水の光が柔らかく1人と1匹を包んでいる。
『お願い。彼らを助けてあげて……
みんながあなたを待っている』
「えっ、と……あの………ぼく………」
不安げな顔をする少年に、黒猫は優しく微笑んだ。猫だから微笑んだかはよくわからないのだけれども。
『大丈夫……すぐ分かるわ
さぁ、目を開けて……また会いましょう……』
その言葉を最後に、またプツリと音を立てて、意識が途切れた。遠くなる意識の中で、鼻の先を微かに甘い香りが触れた気がした。
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柊 A/ ヒイラギ
10歳の少年。
年の離れた兄がいるらしい。
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もくせ - 好みの小説…!!続きが読みたいです!! (10月9日 23時) (レス) @page8 id: 68b438f60e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くらげ | 作成日時:2023年2月14日 14時