レモンとミントとビターズと (ページ3)

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●ep.3●～プロローグ～ページ3

「じゃあ、お疲れさまでした！また飲みに連れてってください！」

『ん〜、どうしよっかなぁ？…なんてね。またな、気をつけろよ』

今日は少し時間が遅くなってしまった。10時48分。

ご飯はいいって言ったけど、流石にもう寝てるよな。

新宿に来るのは本当に久々だった。まして歌舞伎町なんて

なんだか妻に申し訳なくて来ないようにしていた。

『急いで帰ろう。』

そう思って足早に歩みを進めた。駅までの近道をするために俺は路地裏に入った。
そこは相変わらず汚いところだった。軽度の潔癖症だった俺は少し嫌悪感を覚えながらも

歩みを進めていた、時だった。

「げほっ、うっ、くっ頭いてぇ〜。」

そこには俗に言う潰れて路地裏で意識を手放した男、がいた。

顔は赤く、服は乱れた彼に俺はなぜか強く惹かれた。

『あの、大丈夫ですか？とりあえず、立って。』

気がついたら声をかけていた。彼を支え立ち上がらせた。

背は俺よりも低く、少し筋肉質ではあるものの、俺からすれば

"小柄"や"華奢"の部類に入るような体格だった。

「ごめんなさい。ありがとうございます、おにーさん」

そう言って顔を上げた彼を見て驚いた。まだ大学生くらいの子なのに、

妙に熱を帯びた表情に俺は釘付けになった。これが、人生で初めて体験した

"一目惚れ"だった。

『君、学生だよね？こんな時間にここにいるのは良くないんじゃない？』

とにかく早くこの子を家に帰らせてこの子との出会いをなかったことにしなくてはならない。

そんな気がした。そうじゃないと戻れなくなりそうで。

「でも俺、今日家に帰りたくない。」

学生だから親と一緒にいたくないという気持ちに察しはつく。でも、俺は

とにかくこの子から離れることが最優先だった。

『そう言われても、俺の家に泊めることはできないし』

「おにーさん、俺を拾ってよ。おねがい」

彼はそう言ったと同時に彼の唇が俺の頬に触れた。

あまりにも突然の出来事だったため、一瞬理解が追いつかなかった。

でも彼を放っておけなくて。妻に連絡を入れた。

『ちょっと待ってて。…あ、もしもし。ごめん、今日終電間に合わなそうだから

　ほてるにとまっていくわ。ごめんな。』

「奥さん、いたんだ。ごめん、いいよ帰って。変なこと言った。」

どこかせつなそうにそういった彼の手を引き、ホテルへと足を運んだ。

今思えば、このときから俺は底なし沼にはまっていたのかもしれない。

あの時の戻れなくなるという予感は見事に的中していた。