早起きは三文の徳 ページ18
大前家の朝は早い。
だいたい朝5時に起床し、顔を洗って着替え道場に向かう。道着に防具を着用し、準備体操で身体を目覚めさせるのだ。
たとえそれが実家からほど離れた江戸であろうとも、一度身に染み付いた習慣によって脳が覚醒するのは当然の事実。
一番起きるのが早いのは、末妹の沙代だ。早寝早起きの基礎ができている彼女は絵に書いたような健康優良児で、起きたら真っ先に視界に入るのはお日様である。
隣に寝ている次姉を揺らすと、眠りが浅いのかうっすらと瞼を起こした。寝ぼけ眼の起床は早い。
三女、長男次男と起こし、最後は長女だ。意外にも朝に弱く、いつも兄妹揃って起こさないと瞳を見せてくれない。
姉ちゃん起きて、と大前兄妹総出で生地を伸ばすめん棒のように揺らせば、眉間に皺を寄せて眼を覗かせた。
無理やり痩躯を立ち上がらせ、寝相の悪さを刻む布団を畳んで重ねた。
厠で顔を洗い、丁寧に顔を拭いた。美容に気を遣うお年頃の次女はスキンケア用品がないことに少し落胆したが、お小遣いで買おうと決めていた。タイミングがいいのか、実家にあるメイドインドラッグストアのフルラインは残り少ないのを水で嵩増しして誤魔化しながら使っていた。
「稽古とかいつぶりだろ、身体動くかな」
「えぇ、姉ちゃん前もそんなこと言ってぶん投げたじゃん」
「沙苗ね、腰が上がってる。私じゃなくても投げられる」
「おれ、姉ちゃんに突き打たれたの覚えてる」
「脳震盪起こしたやつ?」
「うん」
真選組は武装警察とだけあって、腕っ節に自信を持つ者がほとんどだ。毎日の鍛錬は欠かさず、局長の近藤が道場の出だけあって大前家の朝とさほど変わらない。
前日の夜に、稽古をさせてくれないかと直談判したところ快く許可を貰えたので、朝稽古に参加させてもらうことになった。共に田舎の出身同士、通ずるものもあったのだろう。
日が登りきらない空気は冷たく、足を踏み入れたフローリングは霜を帯びたかのように足裏をきんと刺激する。
準備運動はだいたい各自だ。柔軟体操のときは流石に人の手を借りるが、それまでは各々身体をほぐして温めていく。
握った竹刀の感覚は懐かしいが、手にはすんなり馴染んだ。軽く素振りで振ると空を切る音が耳を削ぐように鳴る。
何度か竹刀を振り、動きに合わせて踏み込んでみた。地響きとはいかないものの、それなりの揺れはある。びりびりと足裏の神経を通り、脳髄に電流が走った。
「……うん、こんなもんかな」
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りんこ(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています!もし決まってましたら、大前兄妹の年齢を教えていただけないでしょうか? (2021年2月24日 15時) (レス) id: 5b2ad52f60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2021年2月23日 17時