アタシが苦手な野郎共【∞】祭 (ページ39)

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【バレンタインデー】玖ページ39

で、バイトがあるからって錦戸も去った。

貰ったチョコその他は部屋に運んで、買ったチョコはヤツの部屋のドアノブに掛けといた。

動きやすい服装に着替えて、念入りに手を洗って。

夜の営業に向けて煮物でも仕込もうかなと腕を捲って、材料を流し台に並べた。

水道の蛇口を捻ると冷水が流れ出し、一気に手の温度が奪われていく。

超、冷たい。

「だから冬って苦手なんだよ……」

しばらくして父さんが降りてきて、今日は二人で店を回すことになった。

母さんは町内会のイベントで温泉だと。

「あ、じゃあ横山と安田入れたの父さんだったの?」

父「おぉ。お前に用事あるからって言ってな。

ちょうどお前が出かけてった直後だよ」

「入れ違いか……

それまでずっと待ってたわけ?」

父「そうだな。色々と、お前の話をして過ごしたよ」

「なんの話をしてたんだよ……」

父「ん? お前のじゃじゃ馬伝説」

「よし。奴ら次会ったらぶっ飛ばす」

刺身包丁握りしめて、少しの怒りと力を込めてアジを三枚に下ろした。

それから無心でアジのたたきを作ってたら父親にやや引かれた。

父「おま、怖ぇよ」

「いつもこんなんじゃん」

父「そんな鬼気迫る感じじゃなかっただろ。まな板割るなよ」

「誰が割るか」

そんなん言い合ってると店開ける時間になって、表の赤提灯に灯り点けて『準備中』の看板をしまった。

外では常連さんやご新規さん、さらには近所の塗装屋の兄さん達や繁華街のオネェ軍団までもが待ち受けていた。

わー、異様すぎて笑っちゃうわ。

父「おうおうバレンタインだってのに寂しい奴らだな。

おら座れ。チョコ貰えなかった悲しい野郎共」

『ちょっと旦那!! あたし達は野郎じゃないわよ!!』

父「まだ付いてんなら野郎だろ。何食うんだ、モツ煮か?」

『いらないわよそんなオヤジ臭いの!! おでんの牛スジちょうだいっ!! つゆだくで!!』

『私、焼き鳥!!』

『たこわさ!!』

父「全員オヤジ丸出しじゃねーか」

「全くだ」

夜になると勢いが増して、さらにお客が増えてくる。

リーマンやOL、ニッカポッカ着てるおっさんやお水の仕事してる姉さんやチャラ男まで。

こうして見ると、うちの店って年齢層幅広いな。

『Aちゃん、こっちビール追加ぁ!!』

『こっちトコロテンちょうだい!』

「はいよぉ! ちょっと待ってな!!」

『レバニラまだぁ?』

『もやし炒め来ないんだけどー』

「待ってって!! 今行くから!!」

あー忙しい。この一言に尽きる。