三つ巴の悲劇 37 ページ5
空中に投げ出された夢を見た。
夢の中では、足下は海だった。水面に叩きつけられた時に目を覚ませたのは、幸いだった。自分は泳げないから。
頭にずきずきうずく痛みを感じながら、クロームは枕を抱きしめる。ベッドから落ちたのだと理解するまで、そう時間はかからなかった。
(……慣れない所で寝たから)
やっぱり、黒曜ランドの日常通り、壁に寄りかかって寝ればよかった。後悔しながら、ふかふかのベッドに横たわれば、体中から力が抜け、自然と顔がほころんだ。
(昨日の夜中には、骸様から言われた仕事ができた……私の役目はもうおしまい。けど、)
目に入るのは重厚な扉。もちろん、幻術を解いている時は簡単に開けられる。だが、体の小さい時の自分では、開けられない。つまり、家主達は、クロームを自由に出入りさせないつもりだということ。
(確かに私はスパイ……だけど、悪意はない。こういうの、一番……悲しい)
そっと目を閉じれば、あの少女の目が浮かんでくる。明らかに警戒した目が、とがめるように自分を見ていた。
「哀くん、まだ怒っとるのか？」
弱々しい声で問う博士を、灰原はギラリと睨みつけ、彼の前に荒々しくカップを置いた。
「……あの子も学校に行くんでしょ？なら早く呼んできたら」
明らかに不機嫌な声だったが、それに救われたかのように博士は席を立つ。地下室に消える背中を見ながら、哀は紅茶を啜った。
博士は勘違いしているが、哀が起こっているのは、少女ーー黒崎凪をホームステイさせようと決めた博士に、ではない。黒崎凪という娘そのものに、だった。
(半年前の新聞記事に載っていた、トラック横転事故。猫を抱いたまま死亡した十三歳の少女が、黒崎凪……)
灰原には悪い癖がある。黒の組織のような場所に長く生きていたせいだろうか、周囲の人間が安全か否か、納得するまで調べてしまう。
灰原自身も嫌っていた癖。だが今回ばかりは、幸か不幸か、それが功を奏した。
(生き返り、幼くなった少女。時をねじまげる禁断の薬、アポトキシン4869……
二つを結びつけてしまうのは、強引だろうか)
断言はできないが、可能性の高い推測。急に、哀の心臓がドクリと音を立てる。
「さぁ凪君、ちゃんと食べんとダメじゃぞ。特に、今日は転校初日なんじゃから！」
明るい博士の声と、小さな返事が聞こえる。けれど硬直した哀の体は、後ろを振り向くことも、おはようと微笑むこともできなかった。
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三崎 - こちらの作品も、パスを忘れたのでそのままにするつもりです。今は大変な時期ですが、二次元パワーで現実を乗り切りましょう！ (2020年4月22日 16時) (
レス) id: 070c92fbe6 (このIDを非表示/違反報告)
三崎 - 今は「しま」という名前で、うらみちお兄さんやら携帯獣のクロスオーバーやらpixiv投稿をしています。この三つ巴の悲劇も、もし読んでくださる方がいるなら手直ししてupしたいとも考えています。 (2020年4月22日 16時) (レス) id: 070c92fbe6 (このIDを非表示/違反報告)
三崎 - 現在、サイトの再開に向けて物語を進めたり（進んでない）新しい沼を探したりなどしています。もしこの場所を訪れてくださる方がまたいれば、ぜひご一報ください！ (2020年4月22日 16時) (レス) id: 070c92fbe6 (このIDを非表示/違反報告)
三崎 - どうも、作者です。しばらく夢と創作から身を引いていたのですが、このたび大学進学もきまり、ぼちぼち趣味を再開しています。投稿を終えてからもこんなにたくさんの方々に見ていただけて、うれしい限りです。 (2020年4月22日 16時) (レス) id: 070c92fbe6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきな(プロフ) - 続きを楽しみにしてます！これからも無理せずに頑張ってください！ (2019年9月16日 20時) (レス) id: e7791cc44f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三崎 | 作成日時：2015年7月2日 12時
